movie

  • ガンパウダー・ミルクシェイク

    2022-03-25 17:29

    ※ 忙しい人は結論だけ読んでください「会社<ファーム>の依頼で、殺しやってます」という数秒の語りで、世界をなんとなく飲み込ませてしまう。ネオン看板風の制作会社クレジットから、モリコーネ風のテーマが流れ出した時点で鳥肌。15年前、母親と生き別れになった「ダイナー」に飛び込むカレン・...

  • 王女メディア

    2022-03-07 05:14

    国に繁栄をもたらすという「黄金羊毛」を奪取するため、異国イオルコスに出兵したイアーソンは、黄金羊毛と一緒に、魔女と呼ばれた不思議な能力を持つ女・メディアを囚えて帰国する。イアーソンの寵愛を受け、妻として二人の子どもを産むメディア。しかし、夫は王妃を妻に迎えることとなり、突然の裏切...

  • テオレマ

    2022-03-04 18:15

    工場を経営する父パオロ(マッシモ・ジロッティ)と母ルチーア(シルヴァーナ・マンガーノ)、その息子ピエトロと妹のオデッタ(アンヌ・ヴィアゼムスキー)。それに女中エミリア(ラウラ・ベッティ)を加えた裕福な5人家族の下に、テレンス・スタンプ演じる「客」がやってくる。例外的に美しく「並外...

  • Yella

    2021-08-14 01:22

    暴力的で執着の強い元夫ベンから逃れるため、イェラ(ニーナ・ホス)は東ドイツから西ドイツのハノーバーに職を求める。出発の朝、半ば脅迫めいた形で「駅まで送る」というベンの背後に号砲のような爆音が聞こえ、追い立てられるように彼女が渋々車に乗ると、経済的にも追い込まれていたベンはそのまま...

  • ダムネーション 天罰

    2022-01-29 12:55

    永遠に石炭を運び続ける滑車は重々しいドローンを鳴らし、街は朽ちる。気がつくとカメラは窓ガラスを隔てた室内にあって、不快な低音も遠ざかっていくが、その距離、隔てた空間の確かな存在は消えることがない。プラトンの言うように、音楽は街に忍び込み、精神の変容を促す。この脳髄を引きずるような...

  • フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

    2022-01-28 17:18

    あまり熱心とは言えないファンにしては割と意気込んで、その証拠に公開初日、いち早く鑑賞にこぎつけたウェス・アンダーソン監督最新作。一本の映画としての脈絡や体裁を棄ててものしたのは、軽やかで自由だが、しかしはっきりとウェス・アンダーソンしか撮り得ない世界観の傑作だった。『カンザス・イ...

  • マリグナント 狂暴な悪夢

    2021-11-18 16:13

    肉塊だったんだよな、俺達。巻き戻しボタンを押したかのような雑さで、ケレン味たっぷりに無理矢理物語をたたみにかかる頃には、俺たちもうすっかり呆けていて喝采をあげる。肉塊だもの、俺たち。指の先まで神経が張り巡らされ、複雑な脳髄を持ちながら、やっぱり臓器の入れ物なんだ私達は、とあらぬと...

  • スウィート・シング

    2021-11-13 09:08

    音楽を塗り替える視覚体験って、ある。何度も聴いたはずのKaren Dalton「Something On Your Mind」。ドブ川に浮かんだジェムのように震える喉の掠れに、ビリーたちの数日が重なる。網膜を焼くスーパー16mmの粒子に刻み込まれた、見えていない残像や、聞こえてこ...

  • Lenz

    2021-11-04 17:37

    アレクサンダー・ロックウェルの新作『Sweet Thing』が公開されるという報せを受けて、俺は歓喜した。なぜなら、彼のデビュー作『Lenz』を観て、エラく感銘を受けていたから。18世紀のドイツを舞台にした、詩人ジェイコブ・レンズの狂気に至る半生を描くゲオルク・ビューヒナーの小説...

  • PITY ある不幸な男

    2021-10-15 03:15

    事故で昏睡状態になってしまった妻を前に、毎日泣くことしか出来ない主人公は、周囲の哀れみを浴びた「不幸な男」として過ごす一方で、この「悲しみ」が自分の本当の感情なのだろうかという疑いを持つ。肉体に感情が伴わないのである。白髪は増えないし、食欲も落ちず、同情した階下の女性が毎日持って...

  • 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ

    2021-10-10 11:38

    「ボンド映画に何を求めていたのか」を、いつも忘れてしまう傾向にある。今回はっきりしたので書いておきたい。それは「格式」である。トム・フォードのスーツに身を包み、アストンマーティンに乗り込むと、007のテーマが鳴り響く。そのカタルシスに身を委ねて歯噛みするのが、少なくとも俺にとって...

  • 由宇子の天秤

    2021-09-25 16:08

    「これは、この状況は、まさに天秤だ…」と鑑賞中に思わされたら制作者の勝ち。河原の道を大きく2つに分ける鉄柵の前で、たった一言のナレーションを前に逡巡する主人公を観て、そう感じた。春本雄二郎監督『由宇子の天秤』、英題が「A Balance」。見事なタイトルだと思う。主人公・由宇子(...

  • ドライブ・マイ・カー

    2021-09-17 02:40

    朝焼けを背景に、全裸の女性が断片的な物語を訥々と語る『千夜一夜物語』のようなシーンで映画は幕を開ける。村上春樹による同名短編を原作とした、『ハッピーアワー』『寝ても覚めても』の濱口竜介監督作品。原作を収めた短編集『女のいない男たち』に収録された『シェエラザード』という作品に由来す...

  • シャン・チー/テン・リングスの伝説

    2021-09-14 15:48

    例えこれ以上なく感動的だったとしても、実は後で振り返ってみたらとんでもなく小さな物語で興ざめした…みたいなことが、「親子の物語」に関しては往々にしてある。小さな物語≒パーソナルな物語としてしか描けない世界というものは存在するので、それは必ずしも悪いことではないのだが、ことヒーロー...

  • DAU. 退行

    2021-09-06 15:43

    イリヤ・フルジャノスキーによる『DAU』プロジェクトの偏狂ぶりは、『DAU. ナターシャ』のレビューの際に触れた通り。その第二作目となる本作『DAU. 退行』は、上映時間6時間9分という、穏当に言っても「苦行」にカテゴライズされる代物。どうみても正気の人間が作ったとは思えないと同...

  • 女性上位時代

    2021-09-03 04:55

    サントラのジャケの方が馴染み深い初期パゾリーニを支えたフラヴィオ・モゲリーニによる美術や、ガイア・ロマニーニの見事な衣装、そして巨匠アルマンド・トロヴァヨーリによる洒落た音楽。チームの素晴らしい仕事はあれど、意味不明にふらつくカメラ(笑った)、素っ頓狂な演技、とお世辞にも完璧な映...

  • ザ・スーサイド・スクワッド ”極”悪党、集結

    2021-08-31 15:18

    かつてクリストファー・ノーランが大傑作『ダークナイト』で掲げた漆黒のバトンは、ザック・スナイダーに渡されてなお、黒々と忌まわしく輝く。そんな漆黒のイメージがつきまとう「DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)」にに「色彩」を持ち込もうとした人たちによるフロンティアがここ、『ザ...

  • Pasolini

    2021-08-18 04:19

    様々な見解のあるパゾリーニの死について、ここまで直球に解釈して、あまつさえ映画化しようとするのは凄いなと思った。監督がアベル・フェラーラだったのでさもありなんだし、俺の苦手で乗り切れないフェラーラだった。パゾリーニの詩作と、映画化の構想がある物語が、彼のインタビューや思想と絡み合...

  • スワロウテイル

    2021-08-11 15:00

    中国語・日本語・英語がめちゃくちゃに混ざりあったマルチリンガルのチャンポン。流暢な猥談が始まるあたりで、「何故か観ていなかった日本映画」の一本であった本作の評価が決まった。こういうのを観ておかないと映画のパースペクティブが狂うから要注意だな、と自戒。そもそも、岩井俊二監督作品を観...

  • ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン

    2021-08-10 05:15

    一日目。じゃがいもを火にかけると、来客あり。その男性を家に迎え入れた主人公(デルフィーヌ・セイリグ)は、そのまま奥の部屋へ。カメラは固定されたまま一転、日が暮れている。男性は女性に紙幣を渡し、「また来週来るよ」と告げる。居間にある大きな壺に紙幣をしまうと、そのまま、バスルームで念...

  • Home

    2021-08-05 07:30

    自宅の前に高速道路が開通したことで、のどかに暮らしていた一家が崩壊する物語。ヨルゴス・ランティモスの語り口並に奇妙で、最終的に訪れるエクストリームな展開には呆気にとられてしまった。イザベル・ユペール、オリヴィエ・グルメ主演、ウルスラ・メイヤーの2010年監督作。この「家」に住み着...

  • ゴジラvsコング

    2021-08-03 10:07

    前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(以下、KOM)』における「人間の描けてなさ」に絶望したクチなので、その点、全く期待せずにむすこと一緒に鑑賞。反面、怪獣の描き方に対するモンスターヴァースのこだわりは信頼していたので、過去の名シーンを振り返る冒頭のモンタージュで大興奮して、...

  • ウィッシュ・ドラゴン

    2021-08-02 14:04

    主人公ディンとリナは貧民街に暮らしながら、龍の凧を飛ばしたりしていた幼少頃に「ずっと親友」であることを誓った幼馴染。両方とも学校生活からはみ出ているが故に分かち難い存在となった。しかし、立身出世を志したリナの父が、川向うの山の手への移住を決意。二人が会えなくなり10年の月日が流れ...

  • オールド・ドッグ

    2021-07-23 18:13

    見るからにしょぼくれた老犬を連れた男が、バイクをノロノロと走らせている。「どうせ犬泥棒に盗まれてしまうから」と、父親が育てた老犬を売り払おうとしている男。ペットブームに湧く中国の富裕層がチベットの純血マスチフ犬を高く買取るので、犬泥棒が横行しているのである。買値1000元とふっか...

  • ノマドランド

    2021-07-20 09:11

    フロンティアスピリットの極北にある楽観オスカー獲る映画は、大体80点。間違いなく面白いけど、一生大事に思うタイプの宝物のような映画かと問われたら、否と応える、そんな「よく出来た」映画。俺、そろそろわかってきたのよ。今年度のアカデミー作品賞『ノマドランド』はちょっとテイストが違った...

  • SNS 少女たちの10日間

    2021-07-16 02:55

    (c) Caught in the Netオーディションで集められた3名の女優が12歳の少女を偽り、SNSにプロフィールを投稿したら何が起こるかを描いたドキュメンタリー。50代の男が、12歳の女の子に「散歩したり、ココアとか飲ませたりしてあげるよ」と提案してて仰天する。それ、うれ...

  • ライトハウス

    2021-07-13 03:29

    俺は好きなんだ。前作『ウィッチ』で、ベルイマン的な退廃と寂寞の中に宿る恐怖を描き出してみせたロバート・エガース。バランスが悪く不格好、決して完璧ではないけど、どうしても頭から離れない映画。『ライトハウス』を観てても、やっぱり歪だなあ、と思うけど、その徹底した美学と語り口の禍々しさ...

  • プロミシング・ヤング・ウーマン

    2021-07-11 16:36

    ささやかな世直しを終えた主人公キャシーが、ホットドッグを頬張りながら夜が明けたばかりの空の下を往く。Charli XCXが歌う「I was busy thinking about boys」。歌詞の意味が反転していく中、賑々しくGIF焼けしたピンクの文字でタイトル。あの可憐でか弱...

  • マンディンゴ

    2021-07-09 07:13

    ハンサムな白人青年のハモンドは、奴隷農場「ファルコンハースト農園」の若旦那。足を引きずる不具の身であるコンプレックスを抱える彼は、白人社会の慣習と己の良心の間で引き裂かれそうになっている。その葛藤に、甘い結末など用意されてはいない。登場する白人たちの誰も彼もが問題を抱えており、同...

  • 屍人荘の殺人

    2021-07-08 02:33

    「浜辺美波が漫画のように可愛いので、それだけで見る価値があるかな」と全く期待せずに視聴(当然、頭空っぽの面構え)。舞台装置の安さ(よく出来てはいるが、色遣いがゲーセンっぽい)、演出のチグハグさ(さっきのムードはどこへ…?)、音楽の使い方(コミカルなところでコミカルな音楽)とか、所...

  • ロード・オブ・カオス

    2021-06-28 17:24

    原作の邦題にもある通り、ブラックメタルの歴史は文字通り「血塗られている」。行為と態度は唾棄すべきものであるのに、誤解を恐れずに書くと、その数々のエピソードと音楽に「魅了されてきた」ことは確かである。「ボーカルの猟銃自殺写真をジャケットに…」「教会に放火…」「メンバーをナイフで滅多...

  • Baghead

    2021-06-27 16:59

    4人の男女が主人公のコメディとして、オフビートな物語の幕は開く。元恋人同士なのだが今も付かず離れずの関係を続けているマットとキャサリン。ファニーフェイスのチャドは、人前でも大きなゲップをしてしまうようなイノセントでキュートなミッシェル(グレタ・ガーウィグ)に恋をしている。そんな彼...

  • ワイルド・アット・ハート

    2021-06-25 17:08

    映画としては良い…というか結構好きだが、「果たしてパルム・ドールを獲るほどのものなんだろうか?」。ポン・ジュノ『パラサイト』を観た後みたいに、今回も首を捻った。デヴィッド・リンチ監督による、長編第5作目。『俺たちに明日はない』や『ナチュラル・ボーン・キラーズ』『ハネムーン・キラー...

  • Jerichow

    2021-06-24 17:36

    アフガニスタンでの戦線から「不名誉な除隊」で帰国したトマスは、雇い主のアリとその妻の三人で、海岸でピクニックをしている。退屈そうな様子を隠さない妻のローラと対象的に、泥酔して踊るご機嫌なアリ。「俺はギリシャ風のダンスを踊っているんだ。お前たちはドイツ風に踊ってみせろ…」と、無理矢...

  • ファーザー

    2021-06-22 17:41

    イモージェン・プーツが出ると知っていたら、もうちょっとドレスアップして行ったのに。とは言え、アンソニー・ホプキンスのチャームが全開である。大はしゃぎでタップダンスを踊ったかと思ったら、突然すっごく厭なことを吐き捨てる。正しく咀嚼できないタイプの支離滅裂さ、事前知識のある我々には「...

  • Mr.ノーバディ

    2021-06-14 06:51

    身体が熱くなった。所謂「ナメてた相手が殺人マシーン」ものに名を連ねる、最高に渋いアクション・ヒーロー爆誕ですよ。Mr.ノーバディことハッチ・マンセルを演じるのは、あの「ソウル・グッドマン」ことボブ・オデンカーク。銃とクルマ。ダンスと暴力。ニーナ・シモンやサッチモの名曲を最高のタイ...

  • アオラレ

    2021-06-12 23:21

    あの太り方はいよいよPoint of No Return…。でっぷりと太ったラッセル・クロウが、ひたすら母子を追い詰めまくる恐怖映画。ラッセル・クロウ版『激突』かと思ったら、マイケル・ダグラス主演『フォーリング・ダウン』などと近い「イラつき不寛容な現代社会」をテーマにした、その実...

  • ツイン・ピークス

    2021-06-10 05:18

    初見は中学生の頃。大狂乱した割にストーリーも何にも覚えてなくて、辛うじて覚えていた要素を指折り挙げてみたら、「ドナ(推し)が突然タバコ咥えて留置場に現れるシーン」「オードリーがゆらゆらと踊るシーン」「ヘザー・グラハム登場」とか、見事に「女の尻を追いかけてた」状態だった。自分でもど...

  • 彼女のいた日々

    2021-06-04 02:50

    遺品整理業者であるニック(Beastie Boysのアドロック=アダム・ホロヴィッツ)がアシスタントとして雇った、若くて美しいナオミ(『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』エミリー・ブラウニング)は、その周辺の人々の生活の歯車をことごとく狂わせてしまう。まるで『テオレマ』のテレンス・スタ...

  • Ham on Rye

    2021-05-25 09:18

    若者たちは「Monty's」というレストランを目指して歩いている。不相応にめかしこんだ彼らが歩くのは、パーティーに参加するのがその目的のようだが、肝心のパーティーの内容は靄がかかったように観客には明らかにされない。そこでは男女の出会いがあるらしい、という情報だけが辛うじて伝えられ...

  • The Pleasure of Being Robbed

    2021-05-25 02:56

    「…アマンダ!…ジャネット!…ジュリー!」 女が、当てずっぽうの名前を連呼している。「…ドーン!」振り返る女性ににこやかに手を振るエレノア。話しかけてきた相手が誰かわからず困惑しているドーンと気さくに世間話をしている間に、バッグを盗む慣れた手管。道端でぞんざいにバッグを漁り、中に...

  • 最近観たLGBT絡みで良かった作品

    2021-05-21 01:49

    あまりに醜悪なニュース。これを挙げることで、抗議と変えさせていただきます。特にオチとかもないし、筆者ならではの視点とかもない。時間もないので、ごくごく一部、挙げた。それだけ。強いて言うなら、映画から学べ。詩人の恋『息もできない』のヤン・イクチュン主演作は、コメディのように始まり、...

  • 怪談

    2021-05-19 15:09

    ジャパニーズ・フォーク・ホラー作品として名高い小林正樹『怪談(Kwaidan)』。抽象度を高めて魔術的なムードを醸し出す書き割りなどのとんでもなく完成度の高い美術(『愛のコリーダ』や『戦メリ』を手掛けた戸田重昌)や、武満徹の雅楽を援用した劇伴をより引き立てる静寂、など、無思考で浴...

  • House of Seven Belles

    2021-05-17 16:01

    『COUCHONS vol.2 - Andy Milligan』で特集されていた「トラッシュホラー界の異端児」アンディ・ミリガン監督作『House of Seven Belles』が、ニコラス・ウィンディング・レフンのbyNWRによって発掘され、MUBIで配信されていたので観た。...

  • Digger

    2021-05-13 16:01

    土砂降りの中、流れ込む汚泥に悪戦苦闘する主人公の姿。「ここで暮らすのはキツい…」と誰もが感じてしまうような孤独でハードな生活に、何十年も会っていなかった息子がバイクに乗って突如として割り込んでくる。母親であり、同時に主人公の元妻である女性の死を伝え、財産として土地と家を要求してく...

  • すばらしき世界

    2021-05-11 14:18

    出所祝いに食べさせてもらったすき焼き。アパートを借りて再出発初日の白飯に落とした生卵。そんな豊かな食事が、乱れる心の中で徐々に荒んでくる。仲野大賀演じる放送作家に説教された苛立ちを、台所で食うカップ麺にぶつける時、その食事の光景は大きな背中の影に隠れて観客にすら見えない。思うに、...

  • 私は確信する

    2021-05-11 08:35

    「赤の他人の無実を証明する」と覚悟を決めた日、事件の人間関係図を構築しようと一人息子の写真を壁から外す。その行為に、この物語が間接的に描きたいことが象徴されている気がした。実話をベースにした、フランスの映画監督アントワーヌ・ランボーの初長編作。僕は、オリヴィエ・グルメ見たさに鑑賞...

  • クリープ

    2021-05-09 16:45

    「ビデオ撮影してくれる人を募集中。1日につき1000ドルを払います」という求人に応募したアーロンが、雇い主の奇行に振り回されるホラー映画。マーク・デュプラスは完全にコメディの脚本もらって演技してたんじゃないかと思うような怪演。77分とタイトな中に、シンプルなアイディアをまとめた佳...

  • クリシャ

    2021-05-06 16:38

    キッチンが廻り続ける限り、少しずつ、少しずつ、彼女は自分の居場所がここに存在しないことを確認させられている。長い空白期間を経て、久しぶりに家族の集いに呼ばれたクリシャは、微妙によそよそしさを漂わせる親戚たちを前に、心改めた自分をアピールしようと奮闘する。調理を手伝う女たち、意に介...

  • DAU. ナターシャ

    2021-04-21 15:41

    激しく尊厳を傷つけられた夜の街を、ナターシャは一人歩く。その背後を、獰猛そうな犬を連れた軍人が歩いている。『DAU』がどれだけ気の狂ったプロジェクトかというのは、色んなところで言及されている(Indie Tokyoの記事が一番重厚かつ面白い)。一言でいうと、一連の映画作品を作り出...

  • 聖なる犯罪者

    2021-04-20 04:45

    ノコギリの軋む不快な音から物語は幕を開ける。主人公を取り巻く不快な「意志」を湛えた空気がそこにある。犬は吠え、雨は身体を打ち付ける。牙を剥く野蛮な現実と、神聖な世界は相対しているようで、彼の信仰は、その相対にこそ立脚しているように思える(告解の部屋が隔てる世界の様相を見よ)。では...

  • エマ、愛の罠

    2021-04-20 04:43

    養子の息子が奪われる、という謎の状況から物語はスタートし、「若い母親であるエマがこの子を取り戻そうとする」、という辛うじての骨子は伝わっては来るものの、特に主人公の気持ちが全く伝わってこない作りは、「信頼できない語り手」の存在を想起させる。叔母に火を付け、猫を冷凍庫で凍らせる息子...

  • ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引書』の映画化をアルモドバルが企画中

    2021-04-19 04:52

    って、表題の「次回作は初の英語作品に!」より断然ヤバくないっすか?残酷な時の流れをザクッと切り取り、その断面を生々しく見せつけるような彼女の作品は、見方によるとほとんどコメディで、アルモドバルとの相性もピッタリに思える。当然オムニバスになると思うんだけど、表題作『掃除婦のための手...

  • VIDEOPHOBIA

    2020-12-30 09:18

    モノクロームの映像が醸し出す不穏さ。濃淡に圧縮された視覚情報が、可能な奥行きを綴じ込んでいく。遠くまで見通せているはずなのに手探りのような、「謎」そのものの中でもがく主人公の狂騒が、観ている僕らにも伝播してしまったかのよう。「見る者」と「見られる者」についての考察がつづら折りにな...

  • mid90s

    2020-09-11 08:01

    主人公たちのグループには「4th Grade(4年生)」という渾名で呼ばれる「記録者」がいて、彼はいつもビデオテープを回している。彼の手に収まったビデオカメラのRECボタンが押されると、登場人物たちのフィクショナルな記録として、サバービアンの日常が丸いフレームに切り取られていく。...

  • 82年生まれ、キム・ジヨン

    2020-09-10 05:10

    1982年の韓国に女性として生まれたキム・ジヨン氏が、淡々と発狂するという態度で社会に抵抗する姿が描き出される。その結末に至る軌跡を追った物語。「女性であること」で、社会がどのように彼女を追い詰めたのかが、ルポルタージュのような冷徹な目線で描かれていく。ただ記録されている事実と、...

  • もう終わりにしよう。

    2020-09-07 17:29

    大変困った。話題になっている、Netflixオリジナル作品として配信されたチャーリー・カウフマン監督作を観た。ネットに溢れる数々の秀逸な感想、解説(特に重要なのは、チャーリー・カウフマン自らが疑問に答えた記事)を読む前に、自分の解釈を書き記しておくのがオススメ。超混乱しながら自分...

  • 成果

    2020-09-06 17:50

    マンブルコアの代表的な作品と言われている『Funny Ha Ha』(未見。つか、どうやったら観れるの!?)の監督であるアンドリュー・バジャルスキーによる2015年の作品。主人公キャット(Kat)を演じるのは、どこかで観たことあるなーと思ったらMCUでマリア・ヒルを演じるコビー・ス...

  • マーダー・ミー・モンスター

    2020-08-24 03:21

    南米アルゼンチンはアンデス山脈を望む村で、首のない遺体が発見された。捜査にあたった主人公クルスの不倫相手フランシスカも同じような手口で殺害され、彼女の夫ダビドが逮捕される。女性を狙ったごくありきたりな猟奇殺人ものとして幕を開ける本作は、仄めかしに次ぐ仄めかしが展開する難解な大仄め...

  • 『スコット・ピルグリム vs 邪悪な元カレ軍団』10周年

    2020-08-19 03:48

    『スコピル』が10周年ですってよ!以下の記事で、原作者ブライアン・リー・オマリーや監督のエドガー・ライト、主演のマイケル・セラなどのスタッフ・キャストが当時のことを語っており、死ぬほど長くて全部は読めなかったがめちゃくちゃ面白かった。Scott Pilgrim vs. the W...

  • キル・リスト

    2020-08-12 16:45

    フォークホラー文脈でかなりの頻度で評判を目にする作品なのに配信すらされていないのだが、DVD購入して観た。仕事するのが厭になって8ヶ月もぶらぶらしてた元軍人の主人公が、相棒に促されて殺しの仕事を再開する…というシノプシスからは全く予期せぬ事態に発展していくので、「フォークホラー」...

  • Enter the Groovy World of French Psychedelic Soundtracks

    2020-08-10 07:30

    ヌーベルヴァーグの伝記ものや、ベルトルッチ『ドリーマーズ』などの作品で馴染み深い60年代後半の「5月革命」。政治と芸術がこの上なく接近したこの時代のフランスで流行した、サイケデリックなサントラについてのBandcampの記事。フランスを覆っていた文化的な軽薄さは、こうした変革の時...

  • ピーター・エマニュエル・ゴールドマン特別上映

    2020-08-06 08:08

    知らねえ監督というのはまだまだいるもんだな。ピーター・エマニュエル・ゴールドマンとは、ニュー・アメリカン・シネマの代表的な作品『Echoes of Silence』が評価されるが、作品を二本撮ってあっという間に業界を離れたという映画監督。ガイ・マディン特集組んでくれたことでおなじ...

  • アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル

    2020-07-29 03:48

    公権力によってフィギュアスケートを奪い取られたトーニャ・ハーディング。ヒールとして世界中から憎まれながらボクシングのリングに上がり、日銭のために殴られる自分が吐いた赤い血を白いマットに残し、彼女はまた立ち上がる。その背後に取り残されたように表示された『I, TONYA』の文字は黒...

  • WAVES/ウェイブス

    2020-07-28 03:35

    対話の先に希望があり、無理解の先に死が待っている。ケンドリックが、アニマル・コレクティヴが、カニエが、そしてフランク・オーシャンが、燃え盛る炎の下で孤独をより深め、寄せては返す緩やかな波のそばで共感を促す。映画館に響く低音は、深いリバーブにディレイで撹拌され、観客はサイケデリアと...

  • SKIN/スキン

    2020-07-21 01:55

    レイシストである主人公が憎悪の雄叫びをあげる場面から物語は始まる。先日日本でも無料公開された、大変衝撃的な内容の短編『SKIN/スキン』の長編版。内容は全く異なり、登場人物にも直接のリンクはないはずだが、剃髪のシーンや、ソファーを使った遊びとか、全く異なるシチュエーションなのにと...

  • 2020年上半期 俺デミー賞

    2020-07-14 03:31

    え、もう…?コロナ禍にやられた上半期、マジであっという間だった…。「今年の作品」については、オンラインで観たものも含めて22本。映画館に直接足を運ぶ回数が圧倒的に少なかったですが、それでも異様に良い作品に出会えたので問題ない。『ミッドサマー』と『凱里ブルース』は未だガチで殴り合っ...

  • 凱里ブルース

    2020-07-06 14:39

    中国・凱里の町医者として働く詩人のチェンは、元チンピラ。息子をリンチの末に殺されたボスの復讐のために人を殺め、9年の懲役を終えて出所すると、妻は病死していた。種違いの弟とは仲が悪く、育児放棄されているその息子・ウェイウェイを引き取りたいと思っているが、ある日、ウェイウェイが数十キ...

  • デッド・ドント・ダイ

    2020-07-05 02:22

    トム・ウェイツ演じるホームレスの元を立ち去ろうとするアダム・ドライバーが、目を離さぬよう、そろそろと後退する冒頭の様子に、確かなリズムを感じる。ルックはいつも一緒だけど、演じ分けの幅が広い、素晴らしい役者。たった数歩の奥行きの中に、臆病さと慎重さ、弱さと強さを滲ませる。作家性に胡...

  • はちどり

    2020-06-30 05:46

    考えても考えても、やはり冒頭に立ち返ってしまう。大きな集合住宅の9階。主人公のウニが買い物を終えて戻ると、ドアが施錠されており、家に入れない。「お母さん、いじわるしないで!」と声を荒げるウニ。しかし自分の家は一階上の10階だった。階を一つ間違えただけで、居場所を失ってしまう。鍵を...

  • ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

    2020-06-25 04:12

    のっけから横運動である。俺たちの「横運動」に対する爛れた執着たるや!グレタ・ガーウィグもノア・バームバックも、レオス・カラックスに、トリュフォーに取り憑かれてる。『フランシス・ハ』でグレタ・ガーウィグ自身が演じたように、NYの街を右に走り抜けるシアーシャ・ローナンこと次女ジョー。...

  • ファイナル・カット

    2020-06-22 03:05

    400本を超える映画のフッテージを継ぎ接ぎして、「物語」の類型を炙り出そうとする試み。信じられないぐらい偏執的な編集の連なりが、実にありがちな「男女の出会いと別れの物語」を描き出す。女性との出会いのシーンは、『ギルダ』においてリタ・ヘイワースが「Put The Blam On M...

  • ミッドサマー

    2020-06-19 03:20

    強烈なトラウマを経験し、何かに依存して生きざるを得なかった人間が、圧倒的なカルチャーショックの末、遂に主体性を取り戻す物語…と書くと、まるでホラー映画のストーリーとは思えないのだ。『へレディタリー』アリ・アスター監督の長編第二作目。エンドロールが終わると、初日満員の客席が異様な空...

  • SKIN(短編)

    2020-06-16 17:02

    小さな家のポーチで息子の髪を刈る父親。とにかく柄は悪そうだが、幸せそうではある。そんな家族を映した風景が、一瞬で悪夢のような状況に陥ってしまう。どこにでもありそうな、とても幸せな家庭を持つ男性が、被差別人種である黒人を前にするととんでもなく凄惨な暴力装置となる。その瞬間の、理屈が...

  • ガイ・マディン

    2020-06-11 05:07

    勉強不足となじるならなじれ。カナダの実験映像作家ガイ・マディンの名を、去年初めて知った。最近作『The Green Fog』が渋谷のユーロスペースで上映されるというのだ。全く知らない作家、日本で紹介されていない実験映像の巨匠。観ない理由がないでしょう?ガイ・マディン(Guy Ma...

  • インヒアレント・ヴァイス

    2020-06-09 02:41

    トマス・ピンチョン『LAヴァイス』(原題はそのまま『Inherent Vice』)をポール・トーマス・アンダーソンが映画化。ピンチョンを映画化なんて、まあ、まともに考えると正気じゃないわけ。脚注だけで膨大なページ数になってしまうほどの語彙(辞書が語りかけてくる…)、引用・暗喩・冗...

  • こおろぎ

    2020-06-03 08:23

    鈴木清順『ツィゴイネルワイゼン』を観たときのような、「最終的に何を言いたいのか全くわからないが、とにかくすごい映画だ」という感想を抱いてしまった青山真治監督の2006年作。盲人(山崎努)と、共に暮す女性(鈴木京香)の関係性を中心にして、物語は展開していく。この二人の「生活」が、ど...

  • すべてが許される

    2020-05-28 01:22

    主人公ヴィクトールと娘のパメラが集合住宅の広場でテニスラケットを手に戯れている。そのショットに突然、帰宅した妻のアネットが出現する。リニアな時間軸が突然に切り裂かれたような感触。かつてはゴダールがジャンプカットで実装したその手法が、自然な文脈で援用されるその手付き。このさりげない...

  • 精神0

    2020-05-25 03:14

    想田和弘監督による「観察映画」第9弾。『精神』(2008年)の続編である本作では、精神病患者のケアに尽力していた山下医師が突如引退し、病気の妻との新しい生活を開始する。コロナ禍の中、「仮設の映画館」でオンライン上映された。「観察映画」は観客の思考力に問いかけてくる。パズルやミステ...

  • バニシング - 消失

    2020-05-09 18:56

    ちょっと目を離した隙に消えてしまった妻に執着し、その犯人を執拗に追い続ける主人公の目線。それ以上に、「犯人」の日常を丁寧に描いた、ノワールっぽさもある実録風の犯罪映画。1988年のオランダ映画だが、2019年にリバイバル上映されて、ようやく観ることが出来た。監督はジョルジュ・シュ...

  • ジョーズ

    2020-05-09 18:42

    サメ映画の嚆矢であり、知らぬ者のいない傑作スリラー。2020年の今でもその強度は衰えていなかった。子供が無残に食い殺され、引き込まれたボートは猛スピードでこちらに迫り、水没した船底から水死体の顔が覗く。若干退屈になる『白鯨』的な展開の末に、きちんと水の魔物と対峙しなければならない...