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ガンパウダー・ミルクシェイク
2022-03-25 17:29
※ 忙しい人は結論だけ読んでください「会社<ファーム>の依頼で、殺しやってます」という数秒の語りで、世界をなんとなく飲み込ませてしまう。ネオン看板風の制作会社クレジットから、モリコーネ風のテーマが流れ出した時点で鳥肌。15年前、母親と生き別れになった「ダイナー」に飛び込むカレン・...
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ダムネーション 天罰
2022-01-29 12:55
永遠に石炭を運び続ける滑車は重々しいドローンを鳴らし、街は朽ちる。気がつくとカメラは窓ガラスを隔てた室内にあって、不快な低音も遠ざかっていくが、その距離、隔てた空間の確かな存在は消えることがない。プラトンの言うように、音楽は街に忍び込み、精神の変容を促す。この脳髄を引きずるような...
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フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊
2022-01-28 17:18
あまり熱心とは言えないファンにしては割と意気込んで、その証拠に公開初日、いち早く鑑賞にこぎつけたウェス・アンダーソン監督最新作。一本の映画としての脈絡や体裁を棄ててものしたのは、軽やかで自由だが、しかしはっきりとウェス・アンダーソンしか撮り得ない世界観の傑作だった。『カンザス・イ...
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マリグナント 狂暴な悪夢
2021-11-18 16:13
肉塊だったんだよな、俺達。巻き戻しボタンを押したかのような雑さで、ケレン味たっぷりに無理矢理物語をたたみにかかる頃には、俺たちもうすっかり呆けていて喝采をあげる。肉塊だもの、俺たち。指の先まで神経が張り巡らされ、複雑な脳髄を持ちながら、やっぱり臓器の入れ物なんだ私達は、とあらぬと...
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スウィート・シング
2021-11-13 09:08
音楽を塗り替える視覚体験って、ある。何度も聴いたはずのKaren Dalton「Something On Your Mind」。ドブ川に浮かんだジェムのように震える喉の掠れに、ビリーたちの数日が重なる。網膜を焼くスーパー16mmの粒子に刻み込まれた、見えていない残像や、聞こえてこ...
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Lenz
2021-11-04 17:37
アレクサンダー・ロックウェルの新作『Sweet Thing』が公開されるという報せを受けて、俺は歓喜した。なぜなら、彼のデビュー作『Lenz』を観て、エラく感銘を受けていたから。18世紀のドイツを舞台にした、詩人ジェイコブ・レンズの狂気に至る半生を描くゲオルク・ビューヒナーの小説...
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PITY ある不幸な男
2021-10-15 03:15
事故で昏睡状態になってしまった妻を前に、毎日泣くことしか出来ない主人公は、周囲の哀れみを浴びた「不幸な男」として過ごす一方で、この「悲しみ」が自分の本当の感情なのだろうかという疑いを持つ。肉体に感情が伴わないのである。白髪は増えないし、食欲も落ちず、同情した階下の女性が毎日持って...
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007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
2021-10-10 11:38
「ボンド映画に何を求めていたのか」を、いつも忘れてしまう傾向にある。今回はっきりしたので書いておきたい。それは「格式」である。トム・フォードのスーツに身を包み、アストンマーティンに乗り込むと、007のテーマが鳴り響く。そのカタルシスに身を委ねて歯噛みするのが、少なくとも俺にとって...
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シャン・チー/テン・リングスの伝説
2021-09-14 15:48
例えこれ以上なく感動的だったとしても、実は後で振り返ってみたらとんでもなく小さな物語で興ざめした…みたいなことが、「親子の物語」に関しては往々にしてある。小さな物語≒パーソナルな物語としてしか描けない世界というものは存在するので、それは必ずしも悪いことではないのだが、ことヒーロー...
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女性上位時代
2021-09-03 04:55
サントラのジャケの方が馴染み深い初期パゾリーニを支えたフラヴィオ・モゲリーニによる美術や、ガイア・ロマニーニの見事な衣装、そして巨匠アルマンド・トロヴァヨーリによる洒落た音楽。チームの素晴らしい仕事はあれど、意味不明にふらつくカメラ(笑った)、素っ頓狂な演技、とお世辞にも完璧な映...
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ザ・スーサイド・スクワッド ”極”悪党、集結
2021-08-31 15:18
かつてクリストファー・ノーランが大傑作『ダークナイト』で掲げた漆黒のバトンは、ザック・スナイダーに渡されてなお、黒々と忌まわしく輝く。そんな漆黒のイメージがつきまとう「DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)」にに「色彩」を持ち込もうとした人たちによるフロンティアがここ、『ザ...
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Pasolini
2021-08-18 04:19
様々な見解のあるパゾリーニの死について、ここまで直球に解釈して、あまつさえ映画化しようとするのは凄いなと思った。監督がアベル・フェラーラだったのでさもありなんだし、俺の苦手で乗り切れないフェラーラだった。パゾリーニの詩作と、映画化の構想がある物語が、彼のインタビューや思想と絡み合...
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ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン
2021-08-10 05:15
一日目。じゃがいもを火にかけると、来客あり。その男性を家に迎え入れた主人公(デルフィーヌ・セイリグ)は、そのまま奥の部屋へ。カメラは固定されたまま一転、日が暮れている。男性は女性に紙幣を渡し、「また来週来るよ」と告げる。居間にある大きな壺に紙幣をしまうと、そのまま、バスルームで念...
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ウィッシュ・ドラゴン
2021-08-02 14:04
主人公ディンとリナは貧民街に暮らしながら、龍の凧を飛ばしたりしていた幼少頃に「ずっと親友」であることを誓った幼馴染。両方とも学校生活からはみ出ているが故に分かち難い存在となった。しかし、立身出世を志したリナの父が、川向うの山の手への移住を決意。二人が会えなくなり10年の月日が流れ...
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SNS 少女たちの10日間
2021-07-16 02:55
(c) Caught in the Netオーディションで集められた3名の女優が12歳の少女を偽り、SNSにプロフィールを投稿したら何が起こるかを描いたドキュメンタリー。50代の男が、12歳の女の子に「散歩したり、ココアとか飲ませたりしてあげるよ」と提案してて仰天する。それ、うれ...
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プロミシング・ヤング・ウーマン
2021-07-11 16:36
ささやかな世直しを終えた主人公キャシーが、ホットドッグを頬張りながら夜が明けたばかりの空の下を往く。Charli XCXが歌う「I was busy thinking about boys」。歌詞の意味が反転していく中、賑々しくGIF焼けしたピンクの文字でタイトル。あの可憐でか弱...
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マンディンゴ
2021-07-09 07:13
ハンサムな白人青年のハモンドは、奴隷農場「ファルコンハースト農園」の若旦那。足を引きずる不具の身であるコンプレックスを抱える彼は、白人社会の慣習と己の良心の間で引き裂かれそうになっている。その葛藤に、甘い結末など用意されてはいない。登場する白人たちの誰も彼もが問題を抱えており、同...
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ワイルド・アット・ハート
2021-06-25 17:08
映画としては良い…というか結構好きだが、「果たしてパルム・ドールを獲るほどのものなんだろうか?」。ポン・ジュノ『パラサイト』を観た後みたいに、今回も首を捻った。デヴィッド・リンチ監督による、長編第5作目。『俺たちに明日はない』や『ナチュラル・ボーン・キラーズ』『ハネムーン・キラー...
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Jerichow
2021-06-24 17:36
アフガニスタンでの戦線から「不名誉な除隊」で帰国したトマスは、雇い主のアリとその妻の三人で、海岸でピクニックをしている。退屈そうな様子を隠さない妻のローラと対象的に、泥酔して踊るご機嫌なアリ。「俺はギリシャ風のダンスを踊っているんだ。お前たちはドイツ風に踊ってみせろ…」と、無理矢...
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彼女のいた日々
2021-06-04 02:50
遺品整理業者であるニック(Beastie Boysのアドロック=アダム・ホロヴィッツ)がアシスタントとして雇った、若くて美しいナオミ(『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』エミリー・ブラウニング)は、その周辺の人々の生活の歯車をことごとく狂わせてしまう。まるで『テオレマ』のテレンス・スタ...
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Ham on Rye
2021-05-25 09:18
若者たちは「Monty's」というレストランを目指して歩いている。不相応にめかしこんだ彼らが歩くのは、パーティーに参加するのがその目的のようだが、肝心のパーティーの内容は靄がかかったように観客には明らかにされない。そこでは男女の出会いがあるらしい、という情報だけが辛うじて伝えられ...
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The Pleasure of Being Robbed
2021-05-25 02:56
「…アマンダ!…ジャネット!…ジュリー!」 女が、当てずっぽうの名前を連呼している。「…ドーン!」振り返る女性ににこやかに手を振るエレノア。話しかけてきた相手が誰かわからず困惑しているドーンと気さくに世間話をしている間に、バッグを盗む慣れた手管。道端でぞんざいにバッグを漁り、中に...
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House of Seven Belles
2021-05-17 16:01
『COUCHONS vol.2 - Andy Milligan』で特集されていた「トラッシュホラー界の異端児」アンディ・ミリガン監督作『House of Seven Belles』が、ニコラス・ウィンディング・レフンのbyNWRによって発掘され、MUBIで配信されていたので観た。...
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Digger
2021-05-13 16:01
土砂降りの中、流れ込む汚泥に悪戦苦闘する主人公の姿。「ここで暮らすのはキツい…」と誰もが感じてしまうような孤独でハードな生活に、何十年も会っていなかった息子がバイクに乗って突如として割り込んでくる。母親であり、同時に主人公の元妻である女性の死を伝え、財産として土地と家を要求してく...
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クリシャ
2021-05-06 16:38
キッチンが廻り続ける限り、少しずつ、少しずつ、彼女は自分の居場所がここに存在しないことを確認させられている。長い空白期間を経て、久しぶりに家族の集いに呼ばれたクリシャは、微妙によそよそしさを漂わせる親戚たちを前に、心改めた自分をアピールしようと奮闘する。調理を手伝う女たち、意に介...
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DAU. ナターシャ
2021-04-21 15:41
激しく尊厳を傷つけられた夜の街を、ナターシャは一人歩く。その背後を、獰猛そうな犬を連れた軍人が歩いている。『DAU』がどれだけ気の狂ったプロジェクトかというのは、色んなところで言及されている(Indie Tokyoの記事が一番重厚かつ面白い)。一言でいうと、一連の映画作品を作り出...
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ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引書』の映画化をアルモドバルが企画中
2021-04-19 04:52
って、表題の「次回作は初の英語作品に!」より断然ヤバくないっすか?残酷な時の流れをザクッと切り取り、その断面を生々しく見せつけるような彼女の作品は、見方によるとほとんどコメディで、アルモドバルとの相性もピッタリに思える。当然オムニバスになると思うんだけど、表題作『掃除婦のための手...
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VIDEOPHOBIA
2020-12-30 09:18
モノクロームの映像が醸し出す不穏さ。濃淡に圧縮された視覚情報が、可能な奥行きを綴じ込んでいく。遠くまで見通せているはずなのに手探りのような、「謎」そのものの中でもがく主人公の狂騒が、観ている僕らにも伝播してしまったかのよう。「見る者」と「見られる者」についての考察がつづら折りにな...
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82年生まれ、キム・ジヨン
2020-09-10 05:10
1982年の韓国に女性として生まれたキム・ジヨン氏が、淡々と発狂するという態度で社会に抵抗する姿が描き出される。その結末に至る軌跡を追った物語。「女性であること」で、社会がどのように彼女を追い詰めたのかが、ルポルタージュのような冷徹な目線で描かれていく。ただ記録されている事実と、...
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もう終わりにしよう。
2020-09-07 17:29
大変困った。話題になっている、Netflixオリジナル作品として配信されたチャーリー・カウフマン監督作を観た。ネットに溢れる数々の秀逸な感想、解説(特に重要なのは、チャーリー・カウフマン自らが疑問に答えた記事)を読む前に、自分の解釈を書き記しておくのがオススメ。超混乱しながら自分...
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成果
2020-09-06 17:50
マンブルコアの代表的な作品と言われている『Funny Ha Ha』(未見。つか、どうやったら観れるの!?)の監督であるアンドリュー・バジャルスキーによる2015年の作品。主人公キャット(Kat)を演じるのは、どこかで観たことあるなーと思ったらMCUでマリア・ヒルを演じるコビー・ス...
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マーダー・ミー・モンスター
2020-08-24 03:21
南米アルゼンチンはアンデス山脈を望む村で、首のない遺体が発見された。捜査にあたった主人公クルスの不倫相手フランシスカも同じような手口で殺害され、彼女の夫ダビドが逮捕される。女性を狙ったごくありきたりな猟奇殺人ものとして幕を開ける本作は、仄めかしに次ぐ仄めかしが展開する難解な大仄め...
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『スコット・ピルグリム vs 邪悪な元カレ軍団』10周年
2020-08-19 03:48
『スコピル』が10周年ですってよ!以下の記事で、原作者ブライアン・リー・オマリーや監督のエドガー・ライト、主演のマイケル・セラなどのスタッフ・キャストが当時のことを語っており、死ぬほど長くて全部は読めなかったがめちゃくちゃ面白かった。Scott Pilgrim vs. the W...
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Enter the Groovy World of French Psychedelic Soundtracks
2020-08-10 07:30
ヌーベルヴァーグの伝記ものや、ベルトルッチ『ドリーマーズ』などの作品で馴染み深い60年代後半の「5月革命」。政治と芸術がこの上なく接近したこの時代のフランスで流行した、サイケデリックなサントラについてのBandcampの記事。フランスを覆っていた文化的な軽薄さは、こうした変革の時...
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ピーター・エマニュエル・ゴールドマン特別上映
2020-08-06 08:08
知らねえ監督というのはまだまだいるもんだな。ピーター・エマニュエル・ゴールドマンとは、ニュー・アメリカン・シネマの代表的な作品『Echoes of Silence』が評価されるが、作品を二本撮ってあっという間に業界を離れたという映画監督。ガイ・マディン特集組んでくれたことでおなじ...
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アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル
2020-07-29 03:48
公権力によってフィギュアスケートを奪い取られたトーニャ・ハーディング。ヒールとして世界中から憎まれながらボクシングのリングに上がり、日銭のために殴られる自分が吐いた赤い血を白いマットに残し、彼女はまた立ち上がる。その背後に取り残されたように表示された『I, TONYA』の文字は黒...
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WAVES/ウェイブス
2020-07-28 03:35
対話の先に希望があり、無理解の先に死が待っている。ケンドリックが、アニマル・コレクティヴが、カニエが、そしてフランク・オーシャンが、燃え盛る炎の下で孤独をより深め、寄せては返す緩やかな波のそばで共感を促す。映画館に響く低音は、深いリバーブにディレイで撹拌され、観客はサイケデリアと...
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2020年上半期 俺デミー賞
2020-07-14 03:31
え、もう…?コロナ禍にやられた上半期、マジであっという間だった…。「今年の作品」については、オンラインで観たものも含めて22本。映画館に直接足を運ぶ回数が圧倒的に少なかったですが、それでも異様に良い作品に出会えたので問題ない。『ミッドサマー』と『凱里ブルース』は未だガチで殴り合っ...
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デッド・ドント・ダイ
2020-07-05 02:22
トム・ウェイツ演じるホームレスの元を立ち去ろうとするアダム・ドライバーが、目を離さぬよう、そろそろと後退する冒頭の様子に、確かなリズムを感じる。ルックはいつも一緒だけど、演じ分けの幅が広い、素晴らしい役者。たった数歩の奥行きの中に、臆病さと慎重さ、弱さと強さを滲ませる。作家性に胡...
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ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
2020-06-25 04:12
のっけから横運動である。俺たちの「横運動」に対する爛れた執着たるや!グレタ・ガーウィグもノア・バームバックも、レオス・カラックスに、トリュフォーに取り憑かれてる。『フランシス・ハ』でグレタ・ガーウィグ自身が演じたように、NYの街を右に走り抜けるシアーシャ・ローナンこと次女ジョー。...
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インヒアレント・ヴァイス
2020-06-09 02:41
トマス・ピンチョン『LAヴァイス』(原題はそのまま『Inherent Vice』)をポール・トーマス・アンダーソンが映画化。ピンチョンを映画化なんて、まあ、まともに考えると正気じゃないわけ。脚注だけで膨大なページ数になってしまうほどの語彙(辞書が語りかけてくる…)、引用・暗喩・冗...
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すべてが許される
2020-05-28 01:22
主人公ヴィクトールと娘のパメラが集合住宅の広場でテニスラケットを手に戯れている。そのショットに突然、帰宅した妻のアネットが出現する。リニアな時間軸が突然に切り裂かれたような感触。かつてはゴダールがジャンプカットで実装したその手法が、自然な文脈で援用されるその手付き。このさりげない...
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精神0
2020-05-25 03:14
想田和弘監督による「観察映画」第9弾。『精神』(2008年)の続編である本作では、精神病患者のケアに尽力していた山下医師が突如引退し、病気の妻との新しい生活を開始する。コロナ禍の中、「仮設の映画館」でオンライン上映された。「観察映画」は観客の思考力に問いかけてくる。パズルやミステ...
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バニシング - 消失
2020-05-09 18:56
ちょっと目を離した隙に消えてしまった妻に執着し、その犯人を執拗に追い続ける主人公の目線。それ以上に、「犯人」の日常を丁寧に描いた、ノワールっぽさもある実録風の犯罪映画。1988年のオランダ映画だが、2019年にリバイバル上映されて、ようやく観ることが出来た。監督はジョルジュ・シュ...