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スタジオでセッションする予定だったが、メンバーの身内に不幸があり数日前に取りやめ。その代わり、近所のイベントスペースに行ってみようと行っていたのだが、当日になって家族の都合でそちらも中止。その時、家族みんなで昼食がてら散歩に行くも、なんか高かったり、行列出来てたり、むすこが嫌がったりで、なかなか決まらず結局家の近所まで戻ってくると、ぐずついていた空から土砂降りの雨が。これは「本日はどこにも行くべからず」のサインであろうと判断し、一日中『ワンピース』を読んで過ごすことにした。

1996年の初長編作『豚が井戸に落ちた日』を観ると、ホン・サンスは超絶上手い劇映画作家としてデビューし、そこから老成して水墨画のような映画を撮るようになった、と感じてしまう。画面の切り取り方や、編集のタイム感に隙がなく、近作と比較しても音楽が物語の不穏さに寄与する部分が大きい。そもそも、4人の男女の数日が描かれるこの物語で、「豚が井戸に落ちた」のはどの日を指しているのだろうか。それを「どの日」と特定する試みも、的外れなのだろうか。

クズ中のクズ、と言い切って差し支えないであろう、主人公の一人である小説家ヒョソプ。本命の人妻ボギョンとは別に、大学での教え子であったミンジェと逢瀬を重ねている。二人の女性は、それぞれがヒョソプへの恋慕を隠そうとしないが、当のヒョソプの態度は文学に対するそれ、同士に対するそれと同様に、不誠実極まりない。その不誠実さが、少しずつ少しずつ悲劇を手繰り寄せていくのだが、その背景ではデカダンの病に侵されたような、なんとも言えない気だるい空虚が広がっている。

暗い夜道と、手前に薄暗く光る階段。不幸へと続く歩みを止めることのないボギョン。丁度人間一人が横たわるぐらいのスペースに新聞を敷き、ベランダの窓を開け放つラストシーンの「わけのわからなさ」は、近作でいつも感じる「何を言いたいのか全くわからない(が、面白い)」のとは少し風情が異なる。いくつもの物語の糸が一つの地点でこんがらかり、そのほどけないほど複雑な結び目を見せつけられているような印象を受ける。

MCATM

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