• ジョセフ・コシンスキー『トップガン マーヴェリック』/ロッキーを見習って欲しい

        2022-06-11 12:53

        大ヒットおめでとうございます。多くの映画ファンを敵に回すような感想で恐縮なんだけど、個人的には全く合わなかった。マーヴェリックの成長しなさを「なんとなく」肯定してしまったように見える前作の体育会系ノリが心底合わなかったので、その直感に従って、観るの止めればよかった。大変落ち込みま...

      • 青山真治『EUREKA/ユリイカ』/円環と失われた声を求めて

        2022-06-06 17:02

        青山真治さんが亡くなるという悲しい出来事がきっかけで、あの『ユリイカ』を映画館で観る機会を得た。2000年代初頭の東京(周辺)で20代を過ごした皆さん同様、僕らも少なからずジム・オルーク狂だったので、『ユリイカ』を観ることは当然必須であった。にも関わらず、(僕だけが)未見のままこ...

      • ラドゥ・ジュデ『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』/諧謔と皮肉に満ちたコメディの全方位砲火

        2022-06-05 16:39

        真摯な批評の断片が積み重っているだけなのに、ここまで圧縮して出力すると、途端に悪意の塊としてしか捉えられなくなる。容赦も忖度もなく、雪崩のように襲いかかってくる批評が、そのスピードと濃度故にコメディに見えてくるような現象。ルーマニアの映画監督ラドゥ・ジュデによる最新作。自身の性行...

      • Yegor Letov

        2022-05-10 15:33

        『インフル病みのペトロフ家』があまりに良い、特に音楽が、というか、この映画自体がほぼ音楽である…という思いから、サウンドトラックを漁っていて出くわしたイゴール・レトフ。『LETO』におけるKinoも、日本ではあまり知られていないポスト・パンクバンドを知るきっかけになったが、『イン...

      • キリル・セレブレニコフ『インフル病みのペトロフ家』/超現実が背骨を持ったら

        2022-05-09 17:25

        試しに一旦、この混沌とした物語の説明を試みたい。インフルエンザに罹っている主人公ペトロフが、激しく咳き込みながらトロリーバスで移動している。途中、政治家を射殺するミッションに参加させられたり、文字通りの「高熱の時に見る悪夢」のように脈絡のない展開に、自分まで罹患したような心もとな...

      • マイク・ミルズ『カモン カモン』/僕たちの関係に録音がもたらす「永遠性」

        2022-05-07 16:59

        母を亡くして以来関係がギクシャクしていた妹に連絡を取ると、音楽家である彼女の夫が過度のプレッシャーに神経をやられていて、彼の世話をするために息子のジェシーを一時的に誰かに預けなければいけないと言う。ラジオ番組のスタッフとして働く主人公ジョニー(ホアキン・フェニックス)は、ちょっと...

      • ディノチェンゾ兄弟『アメリカ・ラティーナ』/噛み合わない歯車が誘う狂った世界

        2022-04-30 16:03

        美しい妻と二人の娘を持つ歯科医のマッシモは、自宅の地下室で見てはいけないあるものを発見する。「やったのは誰なのか」というフーダニットと、「狂っているのは世界か俺か」というボーダーラインミステリーが並走し、マッシモの心を蝕んでいく。一度観ておきたいと思っていたディノチェンゾ兄弟監督...

      • 「淫らな目線」についての物語/ジャック・オディアール『パリ13区』

        2022-04-22 17:39

        「目線」、それも(劇中で言うように)「淫らな目線」についての物語。四人の男女が、「恋愛」とか「セックスそのもの」を中心に車座で囲み、それらとどのように距離を取るべきなのか逡巡し続ける。あるものは極端に積極的で、あるものは色々な事情から消極的であるが、これは俺の周りにも思い当たる人...

      • モービウス

        2022-04-02 17:06

        期待値ゼロ、早めに済ませておきたいという義務のような気持ちで赴いた公開初日。結論、全然良かった。完全支持。勿論、どうにかして欲しいところはある。「才能」と「血清」を結びつける「Gift」の使い方など、いくつかの重要なモチーフが軽く流されちゃってた字幕の問題というのもある。血清前の...

      • 男と鋼と女と/ジュリア・デュクルノー『TITANE/チタン』

        2022-04-01 20:30

        ここまで異常な映画を観たのは初めてかもしれない。かなりの覚悟を胸に深夜の映画館に向かったのに、こんな事態になってしまって困惑している。かつて観たことがないだけではなく、ジュリア・デュクルノー以外の作り手がこんな映画を撮ることは、これからもないだろう。カンヌ国際映画祭でパルム・ドー...

      • ”正常”の鏡越しにあるサイケデリア/ジャスティン・カーゼル『ニトラム/NITRAM』

        2022-03-31 17:21

        がらんどうの部屋で回り続けるレコードに指を添えると、音楽が不安定なピッチで空虚に鳴り、サイケデリアが黒い花を咲かせる。「やっぱり、サイケは正常の裏側にあるんじゃん!」と心で喝采を送ってしまうが、それはこの物語そのものの表象であるのだ。か細い指の一本でピッチを揺らすそれと同じように...

      • ガンパウダー・ミルクシェイク

        2022-03-25 17:29

        ※ 忙しい人は結論だけ読んでください「会社<ファーム>の依頼で、殺しやってます」という数秒の語りで、世界をなんとなく飲み込ませてしまう。ネオン看板風の制作会社クレジットから、モリコーネ風のテーマが流れ出した時点で鳥肌。15年前、母親と生き別れになった「ダイナー」に飛び込むカレン・...

      • 『THE BATMAN』狂人の瀬戸際で戦う新しいブルース・ウェイン

        2022-03-12 17:49

        ゴッサム・シティの影に潜む「バットマン」の忍び寄る恐怖。漆黒の背景を覆い尽くす深紅の文字「THE BATMAN」と、続く重厚な冒頭の恐怖描写を観て、鑑賞の心構えを決めた。土砂降り。画面越しに感じる湿気だけで相当に鬱々としてくる気分は、その世界の住民とシンクロしているかのようで、不...

      • テオレマ

        2022-03-04 18:15

        工場を経営する父パオロ(マッシモ・ジロッティ)と母ルチーア(シルヴァーナ・マンガーノ)、その息子ピエトロと妹のオデッタ(アンヌ・ヴィアゼムスキー)。それに女中エミリア(ラウラ・ベッティ)を加えた裕福な5人家族の下に、テレンス・スタンプ演じる「客」がやってくる。例外的に美しく「並外...

      • ツイン・ピークス The Return

        2022-03-02 01:16

        遂に旅が終わった…。2017年に再開した『ツイン・ピークス』の旅は、18話の長きに渡り、絶えず驚きをもたらしてくれた。「果たして、ツイン・ピークスに語るべき謎は残っていたのか」などと蒸し返す必要もない、あれもこれも観たい知りたいが、結局『ローラ・パーマー最期の7日間』同様、見たい...

      • さがす

        2022-02-19 13:59

        ……マジか……。「白いソックス」「トイレ借りてもいいですか」。脳に嫌な汗をかいちゃうんすけど…。叩きつけるようなオープニング、伊東蒼演じる女子高生が、少し低めの画角での横移動で大阪の街を急ぐ。『ビューティフル・デイ』のリン・ラムジーとか、パク・チャヌクを連想させるような防犯カメラ...

      • MONOS 猿と呼ばれし者たち

        2022-02-17 17:03

        人里離れた高地、幽玄な景色をバックに、激しい訓練で消耗する少年兵たち。言語や風景から南米を思わせるものの、場所も目的もはっきりしない戦争の中で、人質の管理を任されることになった彼らは、極度の緊張を強いられている。アブストラクトなミカ・レヴィの音楽が見事に演出する、幼い精神の落ち着...

      • ダムネーション 天罰

        2022-01-29 12:55

        永遠に石炭を運び続ける滑車は重々しいドローンを鳴らし、街は朽ちる。気がつくとカメラは窓ガラスを隔てた室内にあって、不快な低音も遠ざかっていくが、その距離、隔てた空間の確かな存在は消えることがない。プラトンの言うように、音楽は街に忍び込み、精神の変容を促す。この脳髄を引きずるような...

      • フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

        2022-01-28 17:18

        あまり熱心とは言えないファンにしては割と意気込んで、その証拠に公開初日、いち早く鑑賞にこぎつけたウェス・アンダーソン監督最新作。一本の映画としての脈絡や体裁を棄ててものしたのは、軽やかで自由だが、しかしはっきりとウェス・アンダーソンしか撮り得ない世界観の傑作だった。『カンザス・イ...

      • 銀兵衛『おっぱいファイアウォール』

        2021-12-22 17:14

        M-1の三回戦観てて一番「明瞭」に響いたのが銀兵衛(「こいつの異様が教室に充満しきる前に」)で、あまりに凄すぎたので既に終わっていた単独『おっぱいファイアウォール』の配信を買った。以前は「ガクヅケの後輩」としてしか認識してなかったし、ネタもあんまり響かなかったんだけれども、しばら...

      • M-1グランプリ2021

        2021-12-20 16:26

        一晩経った今、思い出すのは結局、せり上がりのランジャタイ。巨人師匠のパネルを掻き分けたり、せり下がったり、大いにふざけ倒した結果、全てが台無しになる可能性も考えてハラハラしていた俺たちファンの気持ちをよそに、国ちゃんは伊藤ちゃんの背中をポンと叩いた。ロコディ堂前さん曰く「お笑いフ...

      • マリグナント 狂暴な悪夢

        2021-11-18 16:13

        肉塊だったんだよな、俺達。巻き戻しボタンを押したかのような雑さで、ケレン味たっぷりに無理矢理物語をたたみにかかる頃には、俺たちもうすっかり呆けていて喝采をあげる。肉塊だもの、俺たち。指の先まで神経が張り巡らされ、複雑な脳髄を持ちながら、やっぱり臓器の入れ物なんだ私達は、とあらぬと...

      • スウィート・シング

        2021-11-13 09:08

        音楽を塗り替える視覚体験って、ある。何度も聴いたはずのKaren Dalton「Something On Your Mind」。ドブ川に浮かんだジェムのように震える喉の掠れに、ビリーたちの数日が重なる。網膜を焼くスーパー16mmの粒子に刻み込まれた、見えていない残像や、聞こえてこ...

      • Lenz

        2021-11-04 17:37

        アレクサンダー・ロックウェルの新作『Sweet Thing』が公開されるという報せを受けて、俺は歓喜した。なぜなら、彼のデビュー作『Lenz』を観て、エラく感銘を受けていたから。18世紀のドイツを舞台にした、詩人ジェイコブ・レンズの狂気に至る半生を描くゲオルク・ビューヒナーの小説...

      • PITY ある不幸な男

        2021-10-15 03:15

        事故で昏睡状態になってしまった妻を前に、毎日泣くことしか出来ない主人公は、周囲の哀れみを浴びた「不幸な男」として過ごす一方で、この「悲しみ」が自分の本当の感情なのだろうかという疑いを持つ。肉体に感情が伴わないのである。白髪は増えないし、食欲も落ちず、同情した階下の女性が毎日持って...

      • 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ

        2021-10-10 11:38

        「ボンド映画に何を求めていたのか」を、いつも忘れてしまう傾向にある。今回はっきりしたので書いておきたい。それは「格式」である。トム・フォードのスーツに身を包み、アストンマーティンに乗り込むと、007のテーマが鳴り響く。そのカタルシスに身を委ねて歯噛みするのが、少なくとも俺にとって...

      • 由宇子の天秤

        2021-09-25 16:08

        「これは、この状況は、まさに天秤だ…」と鑑賞中に思わされたら制作者の勝ち。河原の道を大きく2つに分ける鉄柵の前で、たった一言のナレーションを前に逡巡する主人公を観て、そう感じた。春本雄二郎監督『由宇子の天秤』、英題が「A Balance」。見事なタイトルだと思う。主人公・由宇子(...

      • ドライブ・マイ・カー

        2021-09-17 02:40

        朝焼けを背景に、全裸の女性が断片的な物語を訥々と語る『千夜一夜物語』のようなシーンで映画は幕を開ける。村上春樹による同名短編を原作とした、『ハッピーアワー』『寝ても覚めても』の濱口竜介監督作品。原作を収めた短編集『女のいない男たち』に収録された『シェエラザード』という作品に由来す...

      • Clairo - Sling

        2021-09-16 14:25

        「Pretty Girl」の頃から、「これは確かに死ぬほどキュートだが、文字通り受け取るわけにはいけないぞ」という磁石の狂った野生の勘のようなものが邪魔をして、あんまり乗れなかったClairo。だけど、「磁石が狂った」っていうのは自己卑下が過ぎるかも。確かに、塩の塊を持ち出して、...

      • シャン・チー/テン・リングスの伝説

        2021-09-14 15:48

        例えこれ以上なく感動的だったとしても、実は後で振り返ってみたらとんでもなく小さな物語で興ざめした…みたいなことが、「親子の物語」に関しては往々にしてある。小さな物語≒パーソナルな物語としてしか描けない世界というものは存在するので、それは必ずしも悪いことではないのだが、ことヒーロー...

      • ブリーディング・エッジ

        2021-09-07 15:31

        内容については、俺達の導き手こと佐藤良明さんが詳細に書いてくださっているのでそれを読んでくれ。つうか、原書で読んでいる人は、この丁寧な訳注なしにどうやって読むんだろう…と思ってしまうほどの衒学的な情報量。NYの街並みや暮らしが細かく描かれているのはご本人がお住まいらしいのでまあ良...

      • DAU. 退行

        2021-09-06 15:43

        イリヤ・フルジャノスキーによる『DAU』プロジェクトの偏狂ぶりは、『DAU. ナターシャ』のレビューの際に触れた通り。その第二作目となる本作『DAU. 退行』は、上映時間6時間9分という、穏当に言っても「苦行」にカテゴライズされる代物。どうみても正気の人間が作ったとは思えないと同...

      • 女性上位時代

        2021-09-03 04:55

        サントラのジャケの方が馴染み深い初期パゾリーニを支えたフラヴィオ・モゲリーニによる美術や、ガイア・ロマニーニの見事な衣装、そして巨匠アルマンド・トロヴァヨーリによる洒落た音楽。チームの素晴らしい仕事はあれど、意味不明にふらつくカメラ(笑った)、素っ頓狂な演技、とお世辞にも完璧な映...

      • ザ・スーサイド・スクワッド ”極”悪党、集結

        2021-08-31 15:18

        かつてクリストファー・ノーランが大傑作『ダークナイト』で掲げた漆黒のバトンは、ザック・スナイダーに渡されてなお、黒々と忌まわしく輝く。そんな漆黒のイメージがつきまとう「DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)」にに「色彩」を持ち込もうとした人たちによるフロンティアがここ、『ザ...

      • キング・オブ・コントの会

        2021-08-26 03:04

        キング・オブ・コントを旗印に、ダウンタウン松本人志を筆頭にした堂々たるメンツが一同に介し、新作コントを披露する3時間の特番。失政続きのKOCが果たしたほぼ唯一の意義だったのではないか、と思ってしまうほど、充実した時間だった。願わくば、このメンツが全員揃う必要はないので、定期的に(...

      • Pasolini

        2021-08-18 04:19

        様々な見解のあるパゾリーニの死について、ここまで直球に解釈して、あまつさえ映画化しようとするのは凄いなと思った。監督がアベル・フェラーラだったのでさもありなんだし、俺の苦手で乗り切れないフェラーラだった。パゾリーニの詩作と、映画化の構想がある物語が、彼のインタビューや思想と絡み合...