• クリスティ・プイウ『ラザレスク氏の最期』/たらい回し医療の地獄

        2022-12-06 11:36

        腹痛と、それ以上の頭痛を電話越しに訴えるラザレスク氏。「腸の潰瘍だと思う…」という過去の手術がもたらす憶測が、頭痛を過小評価させる。見るからに埃と垢に塗れた小さなアパートで老齢の一人暮らし。娘はカナダに暮らし、親戚は遠くに住む姉一人。ラベルの剥がされた汚いペットボトルが至るところ...

      • M-1グランプリ2022 三回戦

        2022-12-05 15:11

        今年も無事、三回戦動画を全部見終えたので、個人的にあんま知らなかったり、周りで評判聞かないな…って思ったコンビの動画について、書き残しておきます。ご承知の通り、お笑いの好みってあまりにも多様過ぎるのでドンピシャで参考になるというは低い…という前提の上で、気になったら消される前に観...

      • ヨルゴス・ランティモス『アルプス』

        2022-11-28 15:36

        カメラに背を向けた主人公が前進する直前、ちょうど一息分ぐらい。スッと間を置いてから時が動き出す。ヨルゴス・ランティモス監督作『アルプス』。謎のグループ「アルプス」に所属するメアリーが、現実との境を見失う(メアリーを演じるのは『籠の中の乙女』『ロブスター』のAngeliki Pap...

      • 『ミス・バイオレンス』/命との距離の描き方

        2022-11-14 17:01

        11歳の誕生日を迎えた少女アンゲリキは、祖父母と母エレニ、兄妹達との誕生日パーティーの真っ最中に、うっすらと笑みを浮かべたまま、バルコニーから身を投げる。彼女の死によって児童福祉局から目をつけられた家族。子どもや孫たちを奪われてしまわぬよう、祖父は手を尽くすが、極めて抑圧的な彼の...

      • アティナ・ラヒル・ツァンガリ『アッテンバーグ』/骸となった街で

        2022-11-12 18:27

        空想と現実の間には、ぼんやりとしてはいるが、境界線のようなものが確かにある。そして、たびたびその境界線は、いつの間にか現実に蝕まれている。冒頭で映し出される、主人公マリーナと親友ベラによる女性同士の濃厚なキス。実際には経験豊富なベラによる「レッスン」であり、性的な興奮や熱は一切感...

      • コゴナダ『アフター・ヤン』/やがて訪れる決定的な不具合に向けて

        2022-11-12 13:52

        公式サイトに引用された「まるで小津安二郎監督が、アメリカのSF映画を作ったかのような味わい」というハリウッド・リポーターの評が的を射ている。『コロンバス』コゴナダ監督の最新作。絶妙な近未来設定や、舞台装置(金魚鉢型の手提げバッグとか、微妙に現代とズレた服装センスとか)は、同じA2...

      • RRR

        2022-11-09 18:01

        面白い瞬間だけで構成された映画。3時間もあると聞いて、「また、1時間半で収まるものを3時間に引き伸ばした系か!?」と思う方もあるやもしれんが、むしろ映画4本分の物語を3時間にまとめたという奇跡の一本。「さあ大団円!」と思ったら、「INTERRRBAL」が表示され、1時間半しか経っ...

      • アンドリュー・ブジャルスキー『Funny Ha Ha』/流されて生きる俺たちの、見えない壁としての社会

        2022-11-02 17:39

        「マンブルコアのゴッドファーザー」ことアンドリュー・ブジャルスキーによる、マンブルコア最初期の伝説的な一本。公式に買えるVimeoの動画だと字幕もないので躊躇していたんだけど、もごもごすぎてネイティブでも聞き取れないぐらいらしいから、もうこりゃ無理だと思って英語わからないなりに観...

      • Arrrepentimiento - Rewind the Sun

        2022-09-11 16:02

        「太陽を巻き戻せ」。独りごちたそばから、擬態した誇大妄想の種がポロポロと零れ落ちる。晩夏の部屋に一人、夕日が朝日に変わり、僕の時間は所在なさげに壁奥隅に小さく固まっている。Arrrepentimientoのシングル「Rewind the Sun」が配信開始になりました。ぜひ聴いて...

      • 地下室のヘンな穴

        2022-09-11 15:37

        「あらすじ:入ると12時間進んで3日若返る穴がありました」って言われた時点で、「なるほど、これは「入ると12時間進んで3日若返る穴」大喜利映画だな。これがNo.1ヒットってやっぱヘンな国だな、フランス」と思って観るじゃないですか。そうするとちょっと違うんすよね、なんというか、全体...

      • 神は見返りを求める

        2022-09-04 17:27

        なんとなく「観ておこうかな…」と思い、なんとなく観逃していたが、危ない。現時点で今年の裏ベスト的な作品。エンドロールでようやく気づいたのだが、監督はあの吉田恵輔。人間関係ヤダ味ホラー映画の新たな傑作。監督の中でもベストに近い作品なのでは?合コンで酔いつぶれたゆりちゃん(岸井ゆきの...

      • Netflix『呪詛』/収奪された記憶を巡る抵抗の記録【ネタバレ考察】

        2022-08-06 04:02

        6〜7年ぐらい前、沖縄の小さな離島で、観光地からちょっと離れたところにある小路を進んだところ、不思議な空間に入り込んでしまったことがある。不揃いな石が数個ずつまとめられた「塔」が、ぐるり並べられていたその光景に、誰かが(俺かもしれない)「入ってはダメな予感がする…」と呟くと、皆同...

      • バーバラ・ローデン『WANDA』/主体を取り戻す獣

        2022-07-16 18:43

        猛り狂う雑踏。漂白されていないノイズが、70年代の街の空気を煮出す。画素の粗い16mmフィルムの質感。役者は揃いも揃ってほぼほぼ大根。いかにも典型的なBフィルムの風情で、だからこそ、型の定着しない魅力に溢れている。早逝した映画作家バーバラ・ローデンによる1970年の伝説的な作品で...

      • 『マルケータ・ラザロヴァー』/白黒のキャンバスに像を結ぶ野蛮なリアリズム

        2022-07-11 17:39

        雪の舞う極寒の地を往く伯爵一行が、物も言えぬ白痴に見える片腕の男とすれ違うと、やおらスリングを取り出したその男の奇襲に遭い、伯爵の息子クリスティアンとその従者が捕らえられてしまう。略奪者であるコズリーク一家。彼らを捕らえんと復讐に燃えるビヴォ隊長をはじめとする王の部下たち。そして...

      • ある政治家の死

        2022-07-08 18:00

        2022年7月8日。朝から調剤薬局で漢方を調薬してもらってる最中に、奈良で選挙演説中に安倍晋三元首相が撃たれた。まず真っ先に、最悪な気持ちになった。全部ふりだしに戻ってしまう。でも、そのふりだしって、どこのことだろう。そしてまた、バッドな気持ちに打ちのめされてしまう。安倍晋三が二...

      • ジョセフ・コシンスキー『トップガン マーヴェリック』/ロッキーを見習って欲しい

        2022-06-11 12:53

        大ヒットおめでとうございます。多くの映画ファンを敵に回すような感想で恐縮なんだけど、個人的には全く合わなかった。マーヴェリックの成長しなさを「なんとなく」肯定してしまったように見える前作の体育会系ノリが心底合わなかったので、その直感に従って、観るの止めればよかった。大変落ち込みま...

      • 青山真治『EUREKA/ユリイカ』/円環と失われた声を求めて

        2022-06-06 17:02

        青山真治さんが亡くなるという悲しい出来事がきっかけで、あの『ユリイカ』を映画館で観る機会を得た。2000年代初頭の東京(周辺)で20代を過ごした皆さん同様、僕らも少なからずジム・オルーク狂だったので、『ユリイカ』を観ることは当然必須であった。にも関わらず、(僕だけが)未見のままこ...

      • ラドゥ・ジュデ『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』/諧謔と皮肉に満ちたコメディの全方位砲火

        2022-06-05 16:39

        真摯な批評の断片が積み重っているだけなのに、ここまで圧縮して出力すると、途端に悪意の塊としてしか捉えられなくなる。容赦も忖度もなく、雪崩のように襲いかかってくる批評が、そのスピードと濃度故にコメディに見えてくるような現象。ルーマニアの映画監督ラドゥ・ジュデによる最新作。自身の性行...

      • Yegor Letov

        2022-05-10 15:33

        『インフル病みのペトロフ家』があまりに良い、特に音楽が、というか、この映画自体がほぼ音楽である…という思いから、サウンドトラックを漁っていて出くわしたイゴール・レトフ。『LETO』におけるKinoも、日本ではあまり知られていないポスト・パンクバンドを知るきっかけになったが、『イン...

      • キリル・セレブレニコフ『インフル病みのペトロフ家』/超現実が背骨を持ったら

        2022-05-09 17:25

        試しに一旦、この混沌とした物語の説明を試みたい。インフルエンザに罹っている主人公ペトロフが、激しく咳き込みながらトロリーバスで移動している。途中、政治家を射殺するミッションに参加させられたり、文字通りの「高熱の時に見る悪夢」のように脈絡のない展開に、自分まで罹患したような心もとな...

      • マイク・ミルズ『カモン カモン』/僕たちの関係に録音がもたらす「永遠性」

        2022-05-07 16:59

        母を亡くして以来関係がギクシャクしていた妹に連絡を取ると、音楽家である彼女の夫が過度のプレッシャーに神経をやられていて、彼の世話をするために息子のジェシーを一時的に誰かに預けなければいけないと言う。ラジオ番組のスタッフとして働く主人公ジョニー(ホアキン・フェニックス)は、ちょっと...

      • ディノチェンゾ兄弟『アメリカ・ラティーナ』/噛み合わない歯車が誘う狂った世界

        2022-04-30 16:03

        美しい妻と二人の娘を持つ歯科医のマッシモは、自宅の地下室で見てはいけないあるものを発見する。「やったのは誰なのか」というフーダニットと、「狂っているのは世界か俺か」というボーダーラインミステリーが並走し、マッシモの心を蝕んでいく。一度観ておきたいと思っていたディノチェンゾ兄弟監督...

      • 「淫らな目線」についての物語/ジャック・オディアール『パリ13区』

        2022-04-22 17:39

        「目線」、それも(劇中で言うように)「淫らな目線」についての物語。四人の男女が、「恋愛」とか「セックスそのもの」を中心に車座で囲み、それらとどのように距離を取るべきなのか逡巡し続ける。あるものは極端に積極的で、あるものは色々な事情から消極的であるが、これは俺の周りにも思い当たる人...

      • モービウス

        2022-04-02 17:06

        期待値ゼロ、早めに済ませておきたいという義務のような気持ちで赴いた公開初日。結論、全然良かった。完全支持。勿論、どうにかして欲しいところはある。「才能」と「血清」を結びつける「Gift」の使い方など、いくつかの重要なモチーフが軽く流されちゃってた字幕の問題というのもある。血清前の...

      • 男と鋼と女と/ジュリア・デュクルノー『TITANE/チタン』

        2022-04-01 20:30

        ここまで異常な映画を観たのは初めてかもしれない。かなりの覚悟を胸に深夜の映画館に向かったのに、こんな事態になってしまって困惑している。かつて観たことがないだけではなく、ジュリア・デュクルノー以外の作り手がこんな映画を撮ることは、これからもないだろう。カンヌ国際映画祭でパルム・ドー...

      • ”正常”の鏡越しにあるサイケデリア/ジャスティン・カーゼル『ニトラム/NITRAM』

        2022-03-31 17:21

        がらんどうの部屋で回り続けるレコードに指を添えると、音楽が不安定なピッチで空虚に鳴り、サイケデリアが黒い花を咲かせる。「やっぱり、サイケは正常の裏側にあるんじゃん!」と心で喝采を送ってしまうが、それはこの物語そのものの表象であるのだ。か細い指の一本でピッチを揺らすそれと同じように...

      • ガンパウダー・ミルクシェイク

        2022-03-25 17:29

        ※ 忙しい人は結論だけ読んでください「会社<ファーム>の依頼で、殺しやってます」という数秒の語りで、世界をなんとなく飲み込ませてしまう。ネオン看板風の制作会社クレジットから、モリコーネ風のテーマが流れ出した時点で鳥肌。15年前、母親と生き別れになった「ダイナー」に飛び込むカレン・...

      • 『THE BATMAN』狂人の瀬戸際で戦う新しいブルース・ウェイン

        2022-03-12 17:49

        ゴッサム・シティの影に潜む「バットマン」の忍び寄る恐怖。漆黒の背景を覆い尽くす深紅の文字「THE BATMAN」と、続く重厚な冒頭の恐怖描写を観て、鑑賞の心構えを決めた。土砂降り。画面越しに感じる湿気だけで相当に鬱々としてくる気分は、その世界の住民とシンクロしているかのようで、不...

      • テオレマ

        2022-03-04 18:15

        工場を経営する父パオロ(マッシモ・ジロッティ)と母ルチーア(シルヴァーナ・マンガーノ)、その息子ピエトロと妹のオデッタ(アンヌ・ヴィアゼムスキー)。それに女中エミリア(ラウラ・ベッティ)を加えた裕福な5人家族の下に、テレンス・スタンプ演じる「客」がやってくる。例外的に美しく「並外...

      • ツイン・ピークス The Return

        2022-03-02 01:16

        遂に旅が終わった…。2017年に再開した『ツイン・ピークス』の旅は、18話の長きに渡り、絶えず驚きをもたらしてくれた。「果たして、ツイン・ピークスに語るべき謎は残っていたのか」などと蒸し返す必要もない、あれもこれも観たい知りたいが、結局『ローラ・パーマー最期の7日間』同様、見たい...

      • さがす

        2022-02-19 13:59

        ……マジか……。「白いソックス」「トイレ借りてもいいですか」。脳に嫌な汗をかいちゃうんすけど…。叩きつけるようなオープニング、伊東蒼演じる女子高生が、少し低めの画角での横移動で大阪の街を急ぐ。『ビューティフル・デイ』のリン・ラムジーとか、パク・チャヌクを連想させるような防犯カメラ...

      • MONOS 猿と呼ばれし者たち

        2022-02-17 17:03

        人里離れた高地、幽玄な景色をバックに、激しい訓練で消耗する少年兵たち。言語や風景から南米を思わせるものの、場所も目的もはっきりしない戦争の中で、人質の管理を任されることになった彼らは、極度の緊張を強いられている。アブストラクトなミカ・レヴィの音楽が見事に演出する、幼い精神の落ち着...

      • ダムネーション 天罰

        2022-01-29 12:55

        永遠に石炭を運び続ける滑車は重々しいドローンを鳴らし、街は朽ちる。気がつくとカメラは窓ガラスを隔てた室内にあって、不快な低音も遠ざかっていくが、その距離、隔てた空間の確かな存在は消えることがない。プラトンの言うように、音楽は街に忍び込み、精神の変容を促す。この脳髄を引きずるような...

      • フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

        2022-01-28 17:18

        あまり熱心とは言えないファンにしては割と意気込んで、その証拠に公開初日、いち早く鑑賞にこぎつけたウェス・アンダーソン監督最新作。一本の映画としての脈絡や体裁を棄ててものしたのは、軽やかで自由だが、しかしはっきりとウェス・アンダーソンしか撮り得ない世界観の傑作だった。『カンザス・イ...

      • 銀兵衛『おっぱいファイアウォール』

        2021-12-22 17:14

        M-1の三回戦観てて一番「明瞭」に響いたのが銀兵衛(「こいつの異様が教室に充満しきる前に」)で、あまりに凄すぎたので既に終わっていた単独『おっぱいファイアウォール』の配信を買った。以前は「ガクヅケの後輩」としてしか認識してなかったし、ネタもあんまり響かなかったんだけれども、しばら...

      • M-1グランプリ2021

        2021-12-20 16:26

        一晩経った今、思い出すのは結局、せり上がりのランジャタイ。巨人師匠のパネルを掻き分けたり、せり下がったり、大いにふざけ倒した結果、全てが台無しになる可能性も考えてハラハラしていた俺たちファンの気持ちをよそに、国ちゃんは伊藤ちゃんの背中をポンと叩いた。ロコディ堂前さん曰く「お笑いフ...