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コゴナダ『アフター・ヤン』/やがて訪れる決定的な不具合に向けて

公式サイトに引用された「まるで小津安二郎監督が、アメリカのSF映画を作ったかのような味わい」というハリウッド・リポーターの評が的を射ている。『コロンバス』コゴナダ監督の最新作。絶妙な近未来設定や、舞台装置(金魚鉢型の手提げバッグとか、微妙に現代とズレた服装センスとか)は、同じA24製作のSFということで 『エクス・マキナ』のクールな世界観を思い出した。ただ、語り口の静謐さ、これはおそらくこの監督独特のもの。

家族4人がダンスゲームで他の家族とオンライン対戦しているアップテンポなアバンタイトルには惹きつけられるが、それが設定説明にとどまらず、メインのプロットへなスムーズな導入として機能する。「テクノ」と呼ばれる人工生命であるヤンに訪れた決定的な不具合は、このゲームの敗戦後に発覚する。動かなくなったヤンを修理するために(自動運転車で)駆け回る一家の父(コリン・ファレル)は、ヤンの持つある秘密を知ることとなる。彼は、一日に5秒だけ、密かに動画を記録していた。スパイを疑われたこの人工知能が残していた記録を紐解くにつれ、ヤンの隠匿された過去が明らかになっていく。

と言っても、この物語は決してミステリーにだけ重きが置かれたものではない。そもそも、いくつもの重要なモチーフが意図的に曖昧な語り口のまま放置される(中国とのコネクション、移民、養子、明らかに暇そうな父の「忙しすぎた」という過去や、取って代わって今多忙を極める母の話、とか)。その代わりに、いくつかの重要なテーマに、スポットがぼんやりとした光を投げかけているのを感じることとなる。疑似家族が、本当の家族になっていくこと。アジア〜中国人の養子を育てる一家に、アジア人を模したテクノが入ってくること。ヤンの不具合は、家族にとって、いかにして死を受け入れるか、という一般的なイシューへと派生していく。表向きはポップでも、しっかりと重厚なテーマを用意するところが、この監督の流儀なのだとしたら、今後も無条件で追いたい監督の一人になるに違いない。

『コロンバス』で主演していたヘイリー・ルー・リチャードソンが好演。コゴナダ監督作での彼女(謎めいていて思慮深い)と、『サポート・ザ・ガールズ』での彼女(何も考えていないが影響力が凄まじい)が同じ人物とはとても思えないところに、この女優の上手さと魅力があると思う。

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