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ビフォア・ミッドナイト

例えば、トニー・スタークがアイアンマンスーツを身につけたり、ジョン・マクレーンが高いところから飛び降りたり、ランボーがマシンガンを手にしたりする「お約束の一瞬」、我々が喜びと興奮の歓声を上げるその一瞬。ジェシーとセリーヌに関して言えば、二人が冗談を言いながらあてどなく街を歩き出した時がそれだ。でーたー!!「徒歩」!歩き出すだけで観客を興奮させるカップルはこの二人だけ。

勉強不足というか、ラッキーなことにというか、この歳になるまで未見だった『ビフォア』シリーズ。18年かけて三作目が公開になるという話を聞いて、リアルタイム世代になれるチャンスをみすみす逃すような悔しいことはしたくない一心で、『ビフォア・サンライズ』(95年)『ビフォア・サンセット』(04年)を続けて鑑賞し、いざ『ビフォア・ミッドナイト』を、上品な女性にカップルで溢れるBunkamuraル・シネマで観てきましたよ。

皆が感じていることだと思うのだがあえて言わせてもらえば、『ビフォア』シリーズは、「俺の映画」だ。初見から一週間しか経ってないだけに、必要以上に荒い鼻息をもってそう断言する(いや、本当なんだって)。イーサン・ホーク演じるジェシーとジュリー・デルピー演じるセリーヌが、長距離鉄道の中で偶然出会い、ウィーンの街を一晩散策する中で、想いを募らせていく『ビフォア・サンライズ(恋人までの距離(ルビ:ディスタンス)。俺はこのダサい邦題、語呂が良いので嫌いじゃない)』。二人がいよいよウィーンの街に降り立ち、(劇団員との気もそぞろな会話を挟んで)いよいよ歩幅を合わせて会話を弾ませたところから、二人の「お約束」の歴史(18年だぜ)は始まる。一見アドリブのような会話は、実のところ蜘蛛の糸のように複雑に絡まり、ちょっと前の会話の内容が繰り返し繰り返し違った角度から照らされることで、たった二人が僅かな時間で交わす言葉の積み重ねが感情の堆積を生み出していく極上の青春映画である。リチャード・リンクレイター監督の脚本の巧みさ、またそれを受けた二人の演技力、これだけの長いシーンを切り返しのカットで見せているにも関わらず、ひとつなぎのシーンであるように自然な流れに見せる編集の上手さ、どれも本作の魅力に直結している。

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その9年後、公開までにかかった年月と同じだけの年月を経て再会する二人を描いた作品が『ビフォア・サンセット』。本作で参照される「過去の懐かしい思い出」としての前作は、ただただ懐かしいだけではなく、時を経たことによってまた違う顔を見せたりして、一見単純な会話劇である本作自体が時の厚みの中で複雑さを増していくのであった。時が経ち、お互い異なるパートナーとの生活を営んでいる中、9年前のウィーンでの夜の思い出が鎖のように二人を縛り付け、もがき苦しむ様も見せるビターな作品だが、結末では過去の呪縛の中に見つけた思わぬ抜け道からひょっこりと顔を出して可愛らしく息を吸うような、本当に美しい瞬間が待っていて僕は息を飲んだね。

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そして二人の18年後を描いた『ビフォア・ミッドナイト』。今までは特別な夜の話だった。これは、いつもの延長線上にある夜の話。それを不幸な夜と捉えるのか、それとも平凡ながら幸福な日常として捉えるのか。観た人に委ねられている。

ようやく二人きりになった二人が暮れゆくギリシャの田舎町を歩き出した瞬間、皆が「待ってました!」と心で快哉を叫んだことと思う(それこそ、ターミネーターが「I'll be back」と口にした時、ブルース・リーが怪鳥音を発した時のようにね)。9年ぶりにやってきた「お約束」の時間。それまで、かつての二人を思い起こさせる丁々発止のやりとりの中に、経年故のすれ違いや失望、ロマンでは済まされない現実の影が覆いかぶさってきていたたまれない気分になる。長距離列車で隣り合った夫婦の醜い争いをきっかけに始まった恋が、似たような危機に直面していく哀しみのようなものが絶えず画面を支配している。「永遠の愛情は存在するのか」。一作目で「互いの嘘の中にしか存在しない」、二作目で「あなただったら良かったのに」と形を変えながら求められてきた「永遠の愛」という幻想が、三作目にして現実的な形で顕現してくる。

しかし、ジェシーの作家仲間との食事を終え、二人だけの時間が再び始まった時、幾度と無く寄り添ってきた二人の人生の「型」のようなものが見えてくる。こうして、幸せな日常すら破壊してしまうかもしれぬ絶対的な危機を目の前にして、それでも上手くやり過ごしていく「互いの嘘の中で成立する幸せ」というものを肯定した二人。お互いの想いが再び高まっていく幸せな時間を経て、ホテルでの延々と続く犬も喰わない喧嘩。二人の気持ちが急速にしぼんでいく過程で、僕はなんというか、俺たちのジェシーとセリーヌが組手をしてるような感覚を覚えたね。「私はこう言う、こう怒る。あなたはどう返す?」。一生続く崖っぷちでの組手ですよ、あれは。

人によって(未婚or既婚、子持ちor子無し)見え方が変わる映画なのは間違いないと思うけど、少なくとも既婚子持ちの僕から観て、本作は決して「倦怠期」を主題に描いた物語ではなかったし、まして「永遠の愛」を否定した物語でもないと思う。一作目ではまだ若かった彼らが決して分からなかったこと、つまり「お互いの嘘の中に生きる」ことが決して不幸な逃避などではなく、むしろそれを許容し続けることができるラッキーなカップルは、最後の最後でお互いを許し、しかも驚くべきことにロマンチックであり続けることができるのだという希望についての物語なんだと。またしてもジェシーはお得意の「タイムマシン」を引っ張り出してきて、ものすごくチルディッシュだがロマンチックな嘘でセリーヌの心を掴もうとした。それだけの事なのだ。

永久の愛情って成立すると思う?しないっしょ!普通に考えて!っていうのがビフォア・サンライズ。でも俺たちなら成立するかもね、って言うのがビフォア・サンセット。ではビフォア・ミッドナイトは?少なくとも、「永久の愛情など成立しない」なんて身も蓋もないことを言ってる映画じゃないという既婚子持ちである僕の主張は、次作が証明してくれるのかなあ。まだ現役で見れそうだし、9年後、楽しみに待ってます。

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