Seed

スノーピアサー

いくつか母親に感謝していることの中の一つに、「ダイ・ハードを映画館で観せてくれた」っていうのがある。

元々、大の試写会マニア(昔は大作映画の一般試写会をテレビCMで募集してたんですね。今も残ってるのかな、この風習)で、当選確率90%のテクニックを持っていた母が、応募ハガキの穴埋め問題「今話題のブルース・ウィリス主演のアクション大作は、『◯イ・◯ー◯』!」に「ハイダード」とまさかの凡ミスかまして落選するという事件があった。しかしその段階で諦めず、子供料金まで捻出してわざわざ観に行くというその嗅覚には恐れ入る。そう、映画賞を撮るような大層な作品でないが、リアルタイムで劇場で観なければいけない娯楽映画は、ある。『ダイ・ハード』は、それだ。そして、『スノーピアサー』も、まさにそれだ。

人災による超氷河期が到来し、一台の列車「スノーピアサー」に乗る乗客以外の生物が死滅した世界。列車の中は人間社会の縮図であり、更に物資や食料の行き届かない不快な状態であるが故に、厳格なヒエラルキーが存在し、最後尾の車両はほとんどスラム。若い頃からそこで生活してきた青年カーティス(キャプテン・アメリカ役で知られるクリス・エヴァンス)は、スノーピアサーの設計者であり独裁者であるウィルフォード(エド・ハリス)のいる先頭車両へ行き、周囲の仲間と革命を起こすことを企てる。

『母なる証明(大傑作)』『殺人の追憶(大傑作)』『グエムル -漢江の怪物-(大傑作)』で知られる韓国映画界のヒットメーカーであり、同時に超奇妙な映画を撮る通好みの監督としての名声も勝ち得ているポン・ジュノの新作にして、韓国資本ながら初の海外キャストで制作された、紛れも無く全世界規模のSF作品。設定だけで垂涎ものだが、この「列車」と「氷河期の世界」といった基本設定だけを原作の漫画(フランスのグラフィックノベル『Le Transperceneige』)に頼り、他はポン・ジュノのオリジナル脚本で、またしてもその構成美とフックの効かせ方、バランス感覚に唸らされる。

「世界はどうなってしまうのか」「子供たちはどこに行くのか」「プロテインブロックに入れられた赤い紙は誰が書いているのか」(プロテインブロックって何なのかという問いには出来れば答えてほしくなかったけど…)等の魅力的な謎がふんだんに用意され、最下層の主人公たちにとっては未踏の地であった先頭車両を制覇していく中でそれらは一つ一つ解き明かされていく。素晴らしいバランス感覚だなと思うのは、他のどうでもよい疑問には一切答えないところ。ツッコミどころが多く、まるで漫画みたい(原作はその通り、漫画なんだけれども)という指摘は、その極端なストーリーテリング上のバランス感覚が故の指摘ではあるのだが、そのおかげでストーリー運びにドライブ感が出る。「描かれていない部分はよしなに頼みますよ」と観客の想像力に委ねるズルが通用する、見事な割り切り方だなと思うし、これぞSF映画の極上の楽しみ方ではないのか。

キャストも役者揃いで、端正な顔立ちにしなやかな身のこなしが実にアクション映えするクリス・エヴァンスも素晴らしいが、更に脇を支える曲者達のアクの強さが本作の世界観を裏打ちしている。爬虫類顔エド・ハリスのヌメッとした厭な悪役感、もちろん本作でも登場するミスター韓国映画=ソン・ガンホ、そしてなんといってもティルダ・スウィントン!『オンリー・ラバーズ・レフト・アライブ』で見せた50代とは思えない妖艶な美しさから一転、信じられないほど醜く滑稽な女大統領を演じている。

先に挙げたように漫画のようなデフォルメ加減から荒唐無稽と感じたり、よくよく考えると笑える展開も多く、ただただ力技で押しているような印象を受ける方もいるかもしれないが、そういったSFならではの想像の余地があることと、しかしプロットに関連するところはすべてきちんと書き切るという繊細なストーリーテリングの妙は、この作品を一種特筆すべき作品であると評する理由として十分であると思う。今、映画館で観て、今、観れた嬉しさをみなで分かち合うべき傑作娯楽映画である。というか分かち合いたいんだ、俺が。

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