The NET 網に囚われた男

ラストシーンの悲しい美しさがベルリン映画祭の頂を射抜いた『嘆きのピエタ』以降、キム・ギドク監督作は、回を重ねるごとに絵面が平面的で遊びのない感じになっていて、正直「キム・ギドク、どんどん下手になってね?」という印象を拭えなかった。元々『絶対の愛』みたいなメロドラマ風のビジュアルも作っていたので、そういう狙いなのかなとか想像していたんですけど、理由判明。最近作は全部ギドク自身が撮影しているんですね。

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ということで、ローファイになればなるほど、より「俺映画」の趣が強くなっていくギドク映画。朝鮮の国境問題を扱った最新作である『The Net 網に囚われた男』は、普段の「エロ(本当はただエロいわけじゃない)」「グロ(本当はただグロいわけじゃない)」「バイオレンス(本当に暴力的)」がほぼほぼ封印されていたり、オブラートに包まれていたりして、ファンとしては若干の寂しさを覚えつつ、しかし強度の高いポリティックムービーとして楽しめた。

北朝鮮の国境近くの村で漁師をしていた男が、ボートのエンジンが故障したことをきっかけに国境を超え、韓国に不正入国してしまうところから物語は始まる。当然、スパイ容疑をかけられ、執拗な取り調べや暴力で、蹂躙され続ける主人公。しかし、愛する家族、(愛する)祖国に戻るため、耐えて耐えて耐え忍ぶ。

いつも通り、韓国の警察は腐敗しており、何が何でも、場合によってはでっち上げてでも彼をスパイに仕立て上げたい(写真を見て「スパイやってそうな顔だ」って凄い。演じるのは『殺されたミンジュ』で何度もひどい目にあってたキム・ヨンミン)。しかし、上司はそんなやり方に閉口気味で、取調官の乱暴なやり方にブレーキをかけるところが、ちょっと変わったところ。代わりに彼らは、そんな北朝鮮からの密入国者を一人でも多く韓国に亡命させたいという思惑がある。「彼らを独裁政権の元に返すわけにはいかない!」という善意から来る行動なれど、家族を北朝鮮に残してきた主人公にとっては悪夢のような話を持ちかけ、罠にかけてまで強要する。

無学な主人公が社会に翻弄され、どんどんと底なし沼のような不幸にはまり込んでいくという筋書き自体は、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(ラース・フォン・トリアー監督)や『ムサン日記』などでおなじみ。この映画が彼の変化を象徴的に見せるのは、その性欲を通してであって、故に妻を演じているイ・ウヌ(あの『メビウス』の二役演じた才媛ですよ!)の、言葉では表し難い性的な魅力というのは、ギドク映画に一種の説得力を与える要素としてもはや欠かせないものになっているのかもしれない。

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そうした社会派サスペンスを縦軸に置きながら、「北朝鮮よりも自由な韓国で暮らしたほうが幸せだ」とか、「古いものより新しいもののほうが素晴らしい」とかいった価値観を押し付けるな、という横軸にあたるテーマこそが、キム・ギドクが真に問いかけたかったことなんじゃないかと思う。ラストシーンで見せる娘の笑顔に、かなり直裁的に語らせているのがギドクらしくないとは思いつつ、そのシーンが冒頭に上げたような白々しくも冷えた平面的な絵面だったのが、心に引っかき傷を残す。

絵面も地味だし、この「The Net」っていう邦題が地獄のようにダサく、多くの善良なみなさんの観る気が失せるのはわかりますが、「理不尽ポリティカルムービー」としてなかなかの完成度なので、チェックしておいて損はないかもしれませんよ!

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