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ヤンヤン 夏の思い出

台湾旅行前のテンションを高めようと観た、エドワード・ヤン監督作。台湾の描写はあんまりなかったけど、死ぬほど傑作だったので嬉しかった(台湾に行く機会がなかったら一生観なかったかもしれないという…)。

主人公の妻の弟の結婚式から始まるこの物語は、直後に、妻の母が倒れ、自宅介護することになってからの数週間を描いている。家族は、それぞれ些細だが、当人にとっては重大な問題を抱えているが、そのすべてのエピソードが家族全体の情景を描いた細やかな出来事と不可分に結びついており、見事としか言いようがない。ある出来事が語られている最中に、全く別の出来事が語られていても、すぐにはそれと気づかなかったりするぐらい、どのエピソードも突き詰めれば同じようなことが繰り返し行われているその永遠の営みの中の一部であると感じさせられる。
特に素晴らしかったのは、小学生のヤンヤンが「雲」を説明する学習映画を見ている中、途中で気になっている上級生の女の子が入室してくるシークエンス。その女の子をバックに、映像では雲から稲光が発せられる。「雲がダンスを踊り」「複数の雲が寄り集まって」「大きなエネルギーを持ち」「そして雷となるのである」。そうした自然界のエネルギーの高まりと、ヤンヤンの恋心の高まりが見事に呼応する。
優秀な日本人のゲームプログラマーを演じたイッセー尾形と、主人公の対話も素晴らしい。「真摯に仕事に取り組むとはどういうことか」。

娘の現在の恋と、主人公の過去の恋が重なりあうシーン。哀しい結末、哀しい展開をいくつも含んだ話なのに、われわれが現実と向き合うのと同じように、どこか「いつものことだ」と静かな気持ちになってしまう。夢の中で見たおばあちゃんの蝶を、現実に目覚めたあとも手にしていたシーンとか。トピックで書くと、書きたいこと多すぎて難しいですね、この映画。

とにかく、どうやったらここまで入り組んでいながら難解さを感じない脚本がかけるのか、演出ができるのか、全く比類ない仕事だと思う。僕の思い出せる限りでは、こんな凄いドラマは、キアロスタミを観た時以来だと思った。何故、日本では、この人の作品が見づらいのか。他の作品も観たいので、早くDVD再発すべき。

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