老人の不気味な笑顔と奇妙な台詞が特徴的な日本のインディーホラー作品。下津優太監督の作品で、『ブラック・ミラー』のような不条理な世界観を持ち、現代的な恐怖を描き出している。素人っぽい演技と独特の編集が、観客に違和感と不安を与える斬新な表現手法として注目されている。
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『みなに幸あれ』/老人がおかしなことを口走る系ホラー
『ヘレディタリー』や『ゲット・アウト』『スマイル』などの海外ホラーを紐解くまでもなく、今一番怖いのは突き抜けた笑顔であることは間違いない。勝手に「暗がりであれば、笑顔も怖いよね」とか無邪気に信じてると、いやいや真っ昼間の笑顔も相当怖い。下津優太監督作『みなに幸あれ』では、「白昼の交差点で老人が笑顔でおかしなことを口走るのが、怖い」というところまで事態が進行してしまっている。
「ごめんね。わたしたち年寄りのために、若い人たちが犠牲になって」
「台詞回し、間違ったのかも?」とか訝しくなってくるぐらいおかしい。怖い。
古川琴音演じる主人公「孫(としか名前が与えられてないっぽい)」は、祖父母の住む田舎に帰省する。暖かく迎えてくれる祖父母であったが、どこか様子がおかしい…。というありがちな「田舎帰省系ホラー」、もう俺たちも慣れたもんで「様子のおかしさ」にも耐性ついてるんはずなんだけど、それにしても「様子がおかしい」。様子のおかしさが、おかしい。
この「おかしさ」はどこに起因しているんだろう…?とか考えてて、行き着いたのが、古川琴音以外のほぼ全てのキャストの壊滅的な素人演技。今どき、力を抜いて普段着のように演じることだって選択肢として取れるだろうに、変に力の入った素人演技が、かえってどこか 浮世離れしたような雰囲気を映画全体に漂わせる。
「異常」と対峙してから、反応がどこまでも横滑りし続けるのがこの作品の肝。凄惨な事故も、決定的な犯罪の証拠も特に問題にはならず、まともであろうと思った人たちも当然まともではない。それどころか観客の心情と寄り添っていたであろう主人公の行動も、どこか浮世離れしたものと変異していく。その変異においては編集が大きな役割を果たしており、ここで確実に発生したであろうイベントがすっ飛ばされて、次の瞬間、主人公の何らかの決定が映し出されているのであるが、その決定にまつわる時間がすっぽりと切り落とされているが故に、この物語における理が我々の手からこぼれ落ちていってしまうのが面白い。
全体を通して『ブラック・ミラー』の一挿話のような強度ある不条理ホラー作品で、Jホラーの歴史をささやかに前進させるだけのポテンシャルを持った表現だと思った。ただし、エンドロールであんま作品世界にマッチしない音楽が流れたのは大変遺憾でした(Base Ball Bearは、下津監督が受賞した「日本ホラー映画大賞」の審査員を務めていた)。