2026年の関西遠征

これまでの人生で、あまり一人旅をしてこなかったことに、若干の後悔がある。なので、新作テープを作ったこのタイミングで「関西のレコード屋を巡ってみる」という思いつきにはワクワクさせられるものがあった。そもそも、drawing4-5時代を含めて、関西の音楽シーンにほとんど接点のなかった私。たった二日の有給休暇を取るだけで、得られるワクワクがあった。

そうして降り立った京都。ここで一泊して、明日の夜は大阪に一泊。次の日は朝が早くて、加古川経由で加西。そこから大阪に戻って、一泊してから帰京。時間があれば、神戸とか奈良にも足を伸ばすが、それよりも訪問地を深掘りすることを優先する、という基本方針。


初日。むすこの中学校で合唱コンクール的なイベントがあったので、夫婦で参加してからそのまま新幹線。ジョセフ・ルーズ&アンドルー・ポター『反逆の神話』を読みながら(面白い)、爆睡しているうちに到着。宇宙商人の久永くん(こうして書くと宇宙で商売している人みたいですね)と合流して、歩きながら学生の時のようにノンストップで喋り続ける。お互いに方向音痴なので、ぐるぐるふらふらと目的地から離れたり近づいたりを繰り返して、先斗町周辺のヒト族レコード、WORKSHOP records、100000tアローントコを訪問。

ヒト族レコードは初めてだったんだけど、猥雑でサイケデリックなムードと、癖の強い在庫に圧倒される。どうやら「LOS APSON?の姉妹店(を意識している)」とのことで、そう宣言するだけのこともある。実際、山辺さんのMIX CD-Rが大量に置いてあった。サンプルテープ渡して少しお喋り。多分P.K. Don DonのキャロライナーみたいなジャケのMIXを購入。


それこそ数年越しのレベルで、ずっと行きたかった赤垣屋に赴くも、やはり予約なしでは入れず。前回と同じパターン。久永くんは終電もあるので、隣にあった良さげなスンドゥブの店にサクッと入ると、こどもの描いた絵の横にコラージュが貼ってあるような家庭的でアーティスティックな雰囲気を持った良い店。飯も美味いが、読み方がわからん。

時間足りねえな、と思いながら久永くんと別れ、歩いて『未来祭2026』会場の京大吉田寮に到着すると、入場制限が出てて今夜の入場は不可能とのこと。そんで次の日には「複数トラブル」発生で中止になってしまうのだが、あの様子見てたらまあおかしくないかも。俺も「生垣乗り越えて入れば…」とか、ウッドストックの無法者状態になりかけていたので。そういう無法状態の時にしか味わえないものってあるから、難しいよね、とそこから宿泊先の二条城前まで徒歩。俺はこの四日で100,000歩近く歩いたのだ。

一杯だけ飲もうと入った店が大当たりで、結局京都で飯は外さなかったなー。Instagramに吉田寮の模様をアップしたら、それを見た元同僚の塩谷舞から連絡があった。そういえば京都に引っ越したんだった。明日会うことに。


朝起きると雨は過ぎ去っている。「関西に台風が直撃予想」「和歌山県に線状降水帯が発生して豪雨警報」…みたいな状況で、俺が傘を差したのが4日中1日だけ、という。幸運を噛み締めながら二条城前の地下鉄まで歩いていると良さそうな喫茶店があって、モーニング。自分たちで焼いたパンを出していて、美味い。

ホホホ座への道のり。途中にあった「しばし」というアンビエント古民家喫茶に寄りたかったのでそちらに歩いていると、とよ寿司というナイスな寿司屋を発見して海鮮丼に舌鼓を打つ。1,900円でも安い、と思わせるだけのクオリティ。「しばし」も本当に良い空間で、Savannah Band「Sunshower」聴きながらチリン。

再びのんびり歩いてホホホ座まで向かう道すがら、住宅街の中にも「妻と来たい」「むすこに見せたい」と思うような店がたくさんあるのが、京都の魅力。それでも、ホホホ座の佇まいにはちょっとやそっとでは叶わない魅力がある。元ガケ書房(好きすぎて本読んだ)。永遠のワークショップというか学祭というか。

ホホホ座はレコ屋以前に「本屋」であって、俺はすっかり「本屋愛好家」であるので、ここでも時間を費やしてしまう。結局、ここでしか買えない、ホホホ座山下さんの日記(印刷:Hand Saw Press)を購入して、サンプルテープを渡す。


2階に良い古本屋(ホホホ座の別館)の記憶があるので階段を登っていくと、想定していた店はなく、代わりに新しいレコード屋が。古い任天堂のゲーム機や80年代のラジカセが積まれていて、在庫はそこまで多くないのだが、バチュラーパッドなレコードとか、知らねえテキサスのLo-Fiバンドのテープとか、完全に心奪われている。そして、堂々と鎮座するステレオラブのLPの数々。「これは!」と思い、外国人の店長にテープを渡してしばらく話し込む。親友になれそうなレコ屋。RRRRR Kyoto。よく考えたら、俺たちの「Arrrepentimiento」表記と同じ発想の店名だな。

歩いて再び京大吉田寮周りを回って、塩谷舞と会う。死ぬほど美味い金平糖がお土産。10年ぶりぐらいなので、これまたノンストップで1時間ぐらい喋りまくる。子育て大変そうだが、充実した顔してるし、今すぐにでも走り出しそうな雰囲気で生命力がある。かつてあんなに疲れ切っていたのに。よかった。


さて、京都を離れる時が来た。赤垣屋は休業日だった。また次の機会だ。今度は絶対に予約する。鴨川で誰かがサックスの練習をしている。なんて「京都」なんだ、と感動して、久しぶりにフィールドレコーディングした。演奏者がどこにいるのか、最後までわからなかった。


そこそこ長い電車に揺られて大阪に着くと、どこを歩いてもフレッシュだった京都との比較で心底ダルい。今や東京では滅多に見ない「肩で風を切って歩くガニ股の輩」がうようよいる。東京だったら絶対に敬遠するビカビカ電飾の店がデフォルト。なので、良い店でもピカピカ電飾の可能性がある、というのが罠なのだろう。難波から梅田へ。もうとにかく疲弊してホテルへ。妻やむすこと共有したい風景がなさすぎる。

ところで、大阪での二泊はカプセルホテルにしたのだが、これは最高。天国。前にアメトーークで放送された『ドーミーイン芸人』で、かの地の素晴らしさが遺憾無く喧伝されていたが、おそらく皆が隠していることがある。本当は、サウナ付きカプセルホテルのが至高(ドーミーイン未体験なので暴論。でも高くない?ドーミーイン)。清掃時間を除くほぼ一日中、3フロアにまたがる風呂とサウナ使い放題で、宿泊料金4000円いかないなの、すごくないですか?

それが隠されている理由は一つ。男性しか入れないからである。申し訳ねえ。みんなで泊まろ?


朝起きて、今日はすげえんだ。俺は、ついに、Tobira Recordsに行くんだ。オンラインにしか実在しないのではないかと疑われた聖地。大阪から加古川、加古川から粟生、粟生から北条鉄道というローカル線に乗って北条町。実際の行程は2時間強しかないが、朝7時から昼12時までというTobira Recordsの鬼営業時間もあって、難攻不落の地に思えた。しかしみなさんにお伝えする。Tobira Recordsは行ける。ちょっと気合いは必要だが、行けるよ。

これまでの経験上、レコ屋っていうのは「無愛想な店員が、手元でPCをパチパチやってる」のがデフォルトだと思っていた身からすると、Tobira Recordsの店内に広がるのは衝撃的な光景で。3人の店員が凄まじいスピードで梱包作業。雰囲気的には魚市場に近い。そんな中、おそらく出勤前の地元客がやってきて、バカバカ名前も知らないLPを購入していったり、シェイクスピアの話をしていたりで、当地のアート人脈が集まり、情報欲を解消したり繋がったりして、高め合っていく理想的な場なのだなと感動していた。

自分もじっくり吟味してカセットテープ2本購入。自分らのテープを渡す(本来の目的)ついでに、色々お話ししていたら、近所のMeglu Cafeをおすすめしてもらったので、昼食はそこで。まあ見事なお店で、隅から隅まで美味しく、ピーナッツソースの唐揚げに蒸し餃子まで付いてくるのが嬉しい。

ふらりと時間を潰して、12時ちょい過ぎにTobira Recordsに戻ると、店長は既に退店済み。凄まじいバイタリティを感じて震えた。俺は、東京で何度かhakobuneのライブを見ているんだよね。みなさん気さくで、本当に良いお店だった。そのまま、すぐ階上にある13時オープンのアートスペースVoidに行って、そこでもオーナーさんとおしゃべり。ジョンのサンの偏在についての話をした。札幌でも、兵庫でも、どこに行ってもジョンのサンがいる。その他の短編ズ・森脇ひとみさんの個展を開催していたので、鑑賞。作品を一つ購入。

加西、素晴らしかった。Tobira Records〜Void〜木立の「アートビル=大正生命ビル」は、地方におけるアートコミュニティの一つの理想系だと思う。もっと盛り上がって欲しい。


高揚していた気持ちが大阪に近づくにつれて憂鬱になっていく。大阪に戻り、FunTricks Recordsでテープを渡してYNOのテープを購入。梅田の隣駅・中津周りは、梅田・難波の繁華街よりは居心地が良いけど、曇天もあって、気持ちが上がらない。そんな中、前日に塩谷の旦那さん情報で知った天神橋の酒場「ラジカル」が美味しかった。本当に飯を外さない旅。クラフト焼酎の山椒割りが鼻に抜けて気持ちいい。

そのまま商店街を南下して、「熱帯夜」というレコード屋に到着すると、めちゃ人懐っこい店長さんがレコード見る間もないぐらい話しかけてくれる。楽しくてついつい長話。タイムボムの話から、関西ゼロ世代の現状とか。まさに大阪で体感したかった物語であり、難波ベアーズがなくなってしまったが故にいよいよ本格的に体験が難しくなってしまった物語。でも、どこかには確実に根付いているのだ。和モノサイケが大半を占める店の雰囲気には合わなさそうだが、あまりに良い出会いに感動したのでテープをお渡しして、今回持ってきたサンプル在庫が尽きてしまった。明日からは、「視察」という感じの旅になるであろう。


難波のサウナ付きカプセルホテルも最高だった。最終日、喫茶店のモーニング食べたり、通天閣行ったり、自由軒の名物カレー食べたり(あんまり好みの味ではなかったが記念に)、道頓堀抜けて5〜6店のレコ屋を回った。ずっと気になっていたNewtone Recordsもセンスの良いレコード屋で楽しかったが、一番フィットしたのはFolk old bookstore。岡林風穂の短歌集があったり、とても良い本屋だけど音楽にも接続している。ここでもジョンのサンに出会し、偏在が顕になる。何点か買いたいものもあったが、店員さんがおらず断念。

歩き続けて、関西遠征が終わった。4日間の旅で、身のある話をした人だけ合わせても15人以上。人と話しにその土地に出かけていく、その行動の貴重さを改めて実感した4日間でしたよ。

2026年11月8日 02:32
公開
MCATM / 濱田智

rippingyard主宰にして、Arrrepentimie…

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