チェイサー

今年に入ってからの個人的韓国映画ブーム(知ってる人はもっとずっと前から観てたんでしょ!?)を未だに引きずったまま、いよいよ2010年も末。「息も出来ない」「渇き」、ポン・ジュノ監督作品や「シークレット・サンシャイン」、ドキュメンタリーの「牛の鈴音」等々、色々観ましたがとにかく駄作無し、日本映画ともハリウッドとも異なる、重ーい質感の映画がこの短期間でこれだけ作り続けられているという事に驚愕しっぱなし。そんな傑作群の中でもこの「チェイサー」が特に評判高かったため、期待に鼻息荒くして鑑賞したんですが、期待を遥かに上回る大傑作!あまりの娯楽性の高さに背中から大きくのけぞってしまった。

デリヘル嬢が連続で姿を消し、主に金銭的な問題からその行方を追うことになった元刑事にしてデリヘル店オーナーのジュンホ。軸となるのは実在の連続殺人事件をベースにした非常に恐ろしい話で、シリアルキラーの罠に嵌ったデリヘル嬢のミジンの運命が最も大きなプロットになっている。

そもそも、周りからは疎まれ、誰からも信頼されていないが我関せずといった風情の、所謂「人間の屑(ゴミ)」として描かれる主人公が、このたった一晩の事件を通してある感情に目覚め、物語の推進力足る重大なモチベーションを獲得していく。本作では、メインのエピソードと並行する形でその過程が丁寧に描かれており、そもそもは金づるとしてしか考えていなかったデリヘル嬢(その腐った様は冒頭のわずか数分のエピソードでしっかりと説明される)に対して、決して通じる事のない一方的な人間の情をかけていく主人公の変化が見所である。

そうしたいくつかのプロット〜例えば「冷血な」殺人鬼であるヨンミンの過去と心の闇、(韓国映画ではお決まりの)警察や組織の無能や、親子の物語など〜がメインのストーリーと有機的に絡み合い、全ての登場人物がそのいくつかと関わり合い飲み込まれて翻弄されていくその頂点で、多くの運と多くの無能がぶつかり合って最大のカタルシスが訪れる様は、巻き戻しの効かない負のドミノ倒しを見せられているような諦観をたたえた静かで大きな興奮を味わう事が出来る。

やはり美しい映像と斬新な演出は他の韓国映画同様で、この映画が長編デビュー作というナ・ホンジン監督のセンスと、韓国映画界の層の厚さにも舌を巻く。雨の車中、感情を押し殺して電話越しに怒鳴り続けるジュンホと、ただただ泣き続ける娘の姿をガラス越しに捉えたシーンや、傘を放り出して鍵を取り出すシーンなど、言葉や音楽に頼らない、物語の感情に寄り添った表現が突出していた印象。極端に緊張感溢れる恐ろしい物語であるにも関わらず、コミカルな瞬間やハートウォーミングな展開といった緩和のポイントが適切なタイミングで仕掛けられている為、全く飽きずにノンストップで楽しむ事が出来るのも、この作品が優れた娯楽作品に仕立て上げている重要な要素である。

ジュンホが、自店の商売道具であるデリヘル嬢への行く手を阻む諸々を殴りつけ蹴飛ばす時、フラッシュバックする風景に対する今まで感じた事のなかった感情こそが、この物語で描かれる一つの美しい成果物であり、それはおそらく彼のその後の人生を決定づける大切な存在になっていくのであろう事を想像すると、やはり「あいつらにまた会いたい」と思わせるに十分な、心に楔を打ち込んだ傑作となった事を確信するのでした。サイコサスペンス好きのみならず、(暴力〜ゴア描写に耐性があるのであれば)全ての娯楽映画好きにおすすめ出来る作品!

※それにしても主人公のジュンホをはじめとする登場人物の顔という顔がみな良い!見たことのないような素晴らしい「イイ顔」が未だに出て来るというところからも、韓国映画界の「イイ顔」俳優の層の厚さを感じさせます。ソン・ガンホは出ていません(一回休み)。

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