「SRサイタマノラッパー(いわゆるSR1)」サントラについて全曲感想

あなたの2010年をカタカナ9文字で表現してくださいって言われたら。俺は迷いなくこう叫びます、「サイタマノラッパー!」と。先に「SRサイタマノラッパー2」サントラについて書いちゃったんだけど、記念すべき第一作についても感想をまとめておけないと年が越せないだろうということで!書いてみますよ。

はじめに

結論から言うと、非常に発破かけられる作品。これ、繰り返しになっちゃうけど、映画「SRサイタマノラッパー」のサントラでありながら、スピンオフ的作品集でもある。劇中でラップしている曲もあるし、各キャラクターの持ち味を基に「もしも彼らが持ち曲を演ったら」という設定で作っちゃった曲もある。

このアルバムを作り上げた人たちについて

SR2と同じく、トラックはドラマ「モテキ」の音楽をやっていた岩崎太整氏が作ってる模様。そしてライムはヒップホップバンドP.O.P ORCHeSTRAの双子MCこと上鈴木伯周(TKD先輩)&上鈴木タカヒロ(兄)さんのペンによるもの。以前にSR2サントラ評を書いた時、そのいびつを良しとするサンプリング全開感が感じられたので「BBOYが音楽家になって作った」と思い込んでたんだけど、岩崎さんはきちんと音楽知識のある方のようです。P.O.P ORCHeSTRAメンバーとして楽曲制作&キーボードもやりつつ、cubesという大所帯生楽器ヒップホップバンドの主催者でした。逆にすごいなと思うのが、作曲者としての音楽知識やプレイヤー的感覚を持ちながら、それらを全く無視する方向のヒップホップセンスを保ってること。これ結構両立しなくて、普通手弾きトラックが多かったりするとどうしてもスムースになりすぎちゃう傾向があるんですよね、きちんと弾けるから。でも、「組み合わせ強引すぎて、のりしろ見えてるよ」っつうラフさにこそ醍醐味があるジャンルでヒップホップトラックの気持ちよさは「円空仏」の気持ちよさと同じなのです。ザックリ、ゴツゴツの彫り味が産むリズム。95年の音楽誌「GROOVE」vol.3(この号は俺のバイブル)でヤン富田が「和声の知識が弊害になって面白い音が選べなくなっちゃうようじゃこれからの時代きついかもしれない」と言っていたのを思い出した。確かブロッコRADIO(SRクルーによるポッドキャスト)で「SR1は演奏してる部分もある。SR2はほとんどサンプリング」と言っていたと思うので、聴き比べても面白いかもしれないっす。

では、全曲感想です。例のごとく「ラボの好きなパンチライン」も選んでみました。

1. 俺らSHO-GUNG

言わずと知れたサイタマノラッパーのテーマ。サイタマノラッパーの象徴。これはトラックが秀逸。どう秀逸なのか。それはオルガン的音色とフレーズの絶妙ないなたさ、ベロシティ一定で単純なドラムループ、全体的に明るいのか暗いのか、突き抜けてるのかどん詰まりなのか、なんとも判断できないトラック、そしてあの切ない間奏のピアノパート。これがSHO-GUNGそのもの。サイタマのフクヤ市に漂っていた明るい閉塞感そのもの。映画SRサイタマノラッパーそのもの。どこまで計算してこれができたのか、ただ勢いで作って結果的に奇跡を呼び込んだのか。いやいやその両方なのか。分からないけど、こりゃーただごとじゃない。1作観ただけでは「よくできてんなー」くらいの感想だったけど、いよいよシリーズ化されていくにあたって、すべての出発点がこの曲だなんて出来すぎじゃないか?と思ってきました。ダサくもある。でもかっこいいと思い込んでいる。各人が自分のキャラクターを持ち寄り、迷いなくぶち込んでいる。すると、なぜか美しい瞬間すら生まれている。全体的にかわゆい。つうか、たまらなくいとおしい!それは日本語ラップの魅力そのもののでもある。なんか、すごいんだよ。色々重なっちゃうんだ。どこまで意図なのか分からないんだ。でも、魅力的な作品ってそういうものなんだ。また、劇場で聴きたいな。

「ラボの好きなパンチライン」

(IKKU)分かるかTOM MICを繋げ・・・

ね?分かる人には分かる。言うこと無いでしょ、もう。

2. 〜ある日の風景〜 skit

ヒップホップアルバムによくある寸劇。俳優という人たちはイントネーションひとつで異常な情報量を言葉に詰め込んじゃうんだという基本を思い知らされた。すげー。

「ラボの好きなパンチライン」

(MIGHTY)「いつ、いく↑んすか」・・・

声こもらせて「く」にアクセントを置くだけで、「いなたい」「むき出し」「後輩キャラ」なマイティらしさがすげー浮き上がってくる。すごい。

3. MC MIGHTYの上京ラップ

これはスネア!バスバス。バスバスいってる粗雑なスネアがたまらない。スネアが数種類あるとこもたまらない。フィルインのローテクな機材のボタンで打ち込んだ感じがたまらない。ビートがドラムループじゃなくって単音にばらしてパッドで叩きなおした感じがたまらない。エレキギターをディレイで飛ばした音もよく聴くあれで、フルートもエレピもあくまで「パーツ」として配置していてトラックがとてもヒップホップ濃度高め。それと、これはみんな知ってることなんであらためて言うこと無いかもしれないけど、MIGHTYラップうめえ! 

「ラボの好きなパンチライン」 

(MIGHTY)今日/サイタマから東京/ 埼京/線に乗って上京・・・

「/」で区切ることによって「kyou」の韻が堅くなっていて、そういうテクニックがMIGHTYにすごく似合ってる

4. MC TECのお魚ラップ 〜淡水魚編〜

「知らない専門用語を当然のように発音されるフェチ」の俺としては全編パンチライン。あと劇中、TEC氏の独特のイントネーションが醸しだす異物感は半端なく、超クセになる。

「ラボの好きなパンチライン」

(TEC)尺モノ上等 カラツン上等(中略)全然悪くねえ I LOVE 県魚連・・・

尺モノもカラツンも全然わかんないけど何かあるんだろうなーと膨らむ。それから、「全然悪くねえ」というマイナス方面から攻めるプラス表現がいかにも玄人用語っぽくてさー。「I LOVE 県魚連」は今後日本語ラップがいかに興隆を極めても二度と発音されることのないライムなのでもっと評価されるべき。

5. ROUTE17

冒頭のドライブシーンで流れるヘッドバンギングチューン。sho-gung全員でマイクリレーしてる珍しい一曲。車で爆音再生&メンバーがノリノリってヒップホップPVの定番で、見てるだけで上がらざるを得ないよね(地元感ふくめてCharizma & Peanut Butter Wolf - Red Light, Green Lightの43秒あたりを思い出した)。実は冒頭の17号の風景、俺が深谷シネマに行くたびに見る風景と全く一緒なんだ。これはサイタマ県北にすむ者の数少ない特権なんだ。みんなも引っ越すといいよ。あ、ライムなんだけど、映画のしょっぱなだからスルーしちゃうけど、かなり設定が細かくて良くできてるよ。

「ラボの好きなパンチライン」

(TOM)hey yo?調子はどう?なんて集まるイトーヨーカドー どこ行くロイホ?どこ行くガスト?・・・

これはアハハハハと笑いながらも、リアル。寂れ地方激リアルシット。しかし、本人達に悲壮感は無い。そういうものだと思ってるから。というとこまでリアル。

6. PA-RA-PPA

1分のインストヒップホップ。アルバム中断トツでヒップホップかもしれない。全体的にJB’sサンプリングチックだけど、演奏してるのかなー(Cubes的でもあるから)。90年代前半のMC Lyte「Act Like You Know」あたりにすげー音圧低く収録されてそうだな。といえば分かる人は分かるかな。かっこ良い。

7. 教育 金融 ブランニュー

ミックスチャー系というぼんやりした表現が許されるのだろうか、そういうトラックに乗せて劇中とは違って自信満々のsho-gungが付け焼刃すぎる社会派ラップをかますユーモラスかつ痛快な一曲。「教育 金融 ブランニュー」ってタイトル自体がもう問題意識が大雑把過ぎて逆に違うものが浮き出ちゃう可笑しさを一発で表現してるもんね。こういうヒップホップ文法を踏まえた上でのクスっとくるライムを書かせたら実際TKD先輩の右に出る人はいないのでは?P.O.Pの音楽性を知る人なら分かると思うけど、上鈴木兄弟はヒップホップの正統を知りつつもあくまで客観視点を忘れない(さりげなく書いちゃったけど、ここ、サイタマノラッパーが生まれた最も重要なキモで。入江監督が声を掛けたヒップホップ/ラップ担当者が他ならぬ上鈴木兄弟であったということでどれほどのミラクルを呼び込んだか)。あと、IKKUもTOMもここではキレキレで、彼らが本当はこうありたいと考える「理想のsho-gungラップ像」が確認できるのも嬉しい。あれとの壮絶な対比が楽しめますよ。

「ラボの好きなパンチライン」

二酸化マンガン 燃えてるぜ!・・・

教育委員会 かかってこい! 金融庁 かかってこい!の繰り返しの中にこういう変化球を入れてくるうまさがTKD先輩ならではだと思うのです。

8. 李くんのラップthe13億

目玉曲の一つ。MIGHTY実家のブロッコリー畑で働く中国人研修生、李くんという完全なるコメディーリリーフをまさかのフューチャリング。あまりに自由すぎる歌詞(「ラーメンマンとモンゴルマン ほんとはおんなじラーメンマン」…)と李くんこと杉山彦々氏のとぼけた味わいラップが笑いを誘うのだと思ってるかもしれないけど、この曲の最大の爆笑ポイントは「内容に比して不必要なほどトラックの完成度が高い」ところ。ピチカートファイブのアルバムのインタールードみてえな無駄な洗練度が可笑しすぎる。鍵盤もお洒落ならクラップのディレイもお洒落すぎる。ビートも中量級ながら極めてタイト。その上でぼんやりした中国イメージに基づくテケトーなヨタ話を延々続けるという間違いの無いふざけっぷり。それにしても俳優ってすげー!フリートーク部分も高田純次的無敵感があるし、何言っても面白い絶好調の日に書いたライムのよう。

「ラボの好きなパンチライン」

(李くん)ひとりっこ淋しいよ いいなマナカナふたりっこ・・・

意味自体はまったく間違ってないけど、すべてが間違っているというか、マリオで言えば点滅してる感じ。こりゃもう止まんねえなという。

9. MC TECのお魚ラップ 〜海水魚編〜

TEC再び。専門用語フェチだから言うわけではないけど、例えば「高活性」とか「サンデーアングラー da ちょい投げFISHING」と言われたところでさっぱり分かんないが、すごく何かが伝わる。これを初心者目線まで降りてくれて歌詞を書いていたら、たぶん残らない。明治の知識人が幼少期に漢文を素読していたからこそ身についた教養とか感覚って、たぶんあるじゃん。あれと同じ(なのか?)。いや、最近なんでも噛み砕いて小骨とってすりおろして人肌にさましたペースト状のものばかり用意してくれる世間の風潮があって、いつもどうかと思ってるんだけど、「SRサイタマノラッパー」はその対極にある映画だと思ってるんですよ。RAW like sushi&漢文の素読のような映画。そこが魅力なんですよねーって話をしたかったのです。

「ラボの好きなパンチライン」

(TEC)朝まづめ 黒潮 時合最高・・・

時合(じあい)とは魚がよく釣れる頃合、のことだそうです。以前ポッドキャストでTKD先輩のまじ人生相談に対し「地合を見て」って結構素晴らしいタイミングで名言を繰り出したのに、その場にいるみんなが全然流していたのが印象的でした。

10. ROUTE17 "Master Taka-Aki"Mix

ROUTE17再び。作詞作曲のRTR氏によるざらっとしたラップが追加されてる。全体的にMTR感があってそこが宅録経験者ならぐっと来る。

「ラボの好きなパンチライン」

(RTR)逆に上るスベリ台 アメリカまで大体8000マイル・・・

SRの海外版タイトル「8000 miles」を読み込んでるけど、どっちが先なんだろうか。

11. NEGI-DOROBOU

アルバム中最も劇伴的なインスト作品。イントロのベースのこもった音色とけだるさが、FUKUYAの空気とどんづまり感を表していると勝手に理解しています。

12. DJ TKD 辞世のラップ

 

まぎれもない目玉曲であり、このサントラの存在意義。「辞世のラップ」では劇中一切披露されないTKD先輩のラップが聴けるだけでなく、クスクス担当だと思い込んでいた彼の真の苦悩や焦燥まで知ることになる。淡々と、しかし非常に巧みに韻を踏みつつ、病に追い詰められていく日々と心境を平易な言葉で表現していく。これこそヒップホップの醍醐味、喜び。思いのほか伝わってないんだけど、これなんだ。視点を変え、表現を変え、淡々と情景と想いを描写していく。それもきちんと韻を踏んで。意外な言葉の連なりが定期的に韻を生み、リズムを生み、ストーリーは淡々と紡がれていく。この快楽。きちんとヒップホップの魅力まで伝えながら、キャラ設定に命を吹き込み映画世界を拡張してしまうライムを考え抜いたTKD先輩こと上鈴木伯周氏に最敬礼。まじで。トラックは美しくも物悲しいピアノ主体なんだけど、中盤からの展開はアルバム中もっとも好きな2分かもしれない。トランペット?入ってからは「泣き」だけでは表現できない。まさに暖かい午後の陽が差し込む平日の病室のよう。おだやかであり悲しくもありうららか。その隣、犬はただただ昨日と変わらずワンワンと吠えるのでした。そうドラマは日常の傍らにひっそりと佇んでいるんだよなーっていう。

「ラボの好きなパンチライン」

(TKD先輩)ここサイタマの片隅ってなんなんだろうか まいた種が全然実ってない農家 県境に切り取られたシークエンス サンプリング刻み目指すHIPHOPキング・・・

TKD先輩!まいた種はきちんと実ってたんだよ!県境に切り取られてなかったんだよ!って伝えたいよ

13. MC IKKUのやったるぜラップ

最後の曲。劇中流れる音楽の中で最もヒップホップだなと思ってたトラック。BBOYワナビー全開のIKKUがいきがって大股で移動するシーンでかかるトラックでもある。コンプばりばりの力強いビートにシンプルなウッドベースが絡んだループは、アナログが切られたら真っ先に二枚使いされそう。ここで繰り出されるラップは例のラストのあれなラップ。観た人なら誰もが忘れがたいあれなラップ。しかも、この録音では完全に吹っ切れた発声をしていて「IKKUはもうオドオドキョロキョロしないのだ」と分かる。彼はもうこのビートに合わせて無理に大股で歩くことはないだろう。その代わりこのビートを完全に自分のものとして悠々乗りこなし、笑いまで織り込みながら堂々ラッピンするまでになったのだ。千夏に聴かせたい…、なんて思いながら再生しているのは俺だけじゃないはず。考えすぎって人がいるかもしれないけど、「考えすぎができる魅力的な余白」って良い作品、愛すべき作品の条件だと思うのです。

「ラボの好きなパンチライン」

(IKKU)あそこと重複しているライムのすべて・・・

でしょう、そりゃー

まとめ

SR2サントラ全曲紹介でも書いたとおりだけど、まず独特の世界観を持つ本作品を壊すことなく真正面から大股で踏み込んで更に作品世界を拡張しちゃったこのサントラはやっぱ勇気ある。特に「DJ TKD 辞世のラップ」は未聴か否かでSR1の奥行きが全く異なっちゃう白眉の出来。この曲で初めて提示されたTKD先輩像がまんまSR2で描かれているとこも興味深いところ。

あともう一つ。映画史に残るサブカル残虐シーンこと「会議室ライブ」の撮影はなんでもクリスマスに敢行されたらしい。ということは、完成するかどうか分かんない状況で、公開してくれる劇場があるかも未定な状況で、あのシーンはクリスマスに撮影されてるわけですよ。大勢のエキストラは全員「家族で七面鳥」的シーンを代償にして。それがあって映画が出来た。それがあってみんなに届いた。続編まで出来た。その踏み込み具合やあっぱれじゃないっすか。俺は同じようなアクセルの踏み込みをこのサントラからも感じるんです。ライム執筆陣であるP.O.P ORCHeSTRA、作曲者岩崎大整氏、ラップを吹き込んだキャストたちの「どこまで届くかしんねーけど、全力で細部までやり切る」スタイル。「SR最高!」なんて多くの反響を耳にするずっと前、まだ誰も相手にしてくれない、映画自体どうなるのかも見えない中で、このサントラを作り上げたこと。やり切ったこと。これはちょっと、見事だと思うのです。

SR3のサントラ全曲紹介を書ける日を待ち望みながら、思うところを並べてみました。イエー。

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