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バンコクナイツ

とにかく川瀬陽太演じる「金城」の醜悪さは見どころだと思う。どう見ても最初は物腰の柔らかい、如何にも海千山千の「デキる管理職」的な中年である金城。この見逃してしまいがちな俗悪さは、日常のここそこに落ちているものだ。例えば小さな犯罪告白、弱いものが口を噤んでいればなかったものとなる悪事。金城という存在は、こういったものを笑顔でやりすごしていく姿の醜悪さの化身だ。

大傑作『サウダーヂ』を送り出した空族久しぶりの新作長編に、心躍らない法はない。『サウダーヂ』から引き続き、「資本主義」というシステムに対する問題意識をメインテーマに、様々の「搾取の構図」を切り取りながら、バンコクからラオスへ続く風景を映し出したロードムービー。いかんせん、『サウダーヂ』がキャッチー過ぎるので、それを期待して観に行くと肩透かしを食うかもしれない。前作以上に何も説明しない、何も起こらない。3時間の上映時間、それでも眼はギンギンに冴え、次に「起こらない」出来事の空気を肺一杯に吸い込んでは様々な考えを巡らせる。空族の映画は、思考の触媒である

バンコクの夜の街で生きる男女たち。「資本主義」の被膜の裏側に見えるこの街では、小金持ちの日本人観光客が「お客様」としてヒエラルキーのトップに位置するものとして扱われている。富田克也監督自身の演じる主人公のOZAWAは、不動産業者のリサーチ目的で到達するラオスにおいて、自然やそこに土着する精霊、真にカウンターたるもの(「焼け野原から反逆の狼煙」!!)との邂逅を経て、内なる倫理観を少しずつ変化させ、今まで当たり前のように周りにあった風景そのものを疑うようになる。もしくは、以前から内に存在した疑いそのものに目を向けるようになったのかもしれない。その混濁した意識が風景に溶け込む海岸のシーンや、田我流やstillichimiyaとラオスの爆撃跡地を訪れるシーンなど、ため息が出るほど美しいシーンは溢れている。

空族は自作をDVD化しないことがモットーとのことなので、これは映画館でかかっているうちに観に行くのがマストである。『サウダーヂ』もこの機会に併せて観てみてください。

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