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イノセント15

イノセントな二人が、アクションで時間を切り裂く

忘れもしない土砂降りの中、テアトル新宿。前々から観ようと思っていた『イノセント15』を観た。

「瑞々しい」という言葉で誤魔化さない、ささくれだった切り口が見えるような器用とは言えない世界。その継ぎ目に、その継ぎ方に、作り手の見せたい世界の在り様が見えてくる。特に「モンタージュ芸術」であるところの「映画」においては、その傾向が顕著だと思う。

オープニング、なんだかぶっきらぼうに背景音が掻き消され「おや?」と思っていた不安は、積み重ねられるモンタージュの層の中で、心地よい傷跡として機能していった。この映画の「時間」と「編集」についてのセンスは信用して良いと思う。俳優の演技や、音楽など、映画にとって重要な要素は沢山あるが、「編集」そして「時間の取り扱い方」についての誠実さって、俺は最も重要だと思っているのだ。

「少年」と「青年」、「少女」と「女性」の狭間で、地方都市の現実のどうしようもないビターさに打ちのめされる男女の姿を描いたのが『イノセント15』。そうしたビターさを前に、「少年」と「少女」がアクションを以って時間を切り裂き、物語が前進する。(その「ビターさ」のカリカチュアがあまりに過剰で突拍子もなさすぎて鼻白む、という意見もあったが、確かに娘を簀巻にする母親って漫画だろ…と思うようなこともありつつ、しかしそこをこの物語のリアリティラインとして設定する覚悟として、後の展開も含めて筋の通ったものを感じる)

特に、「少年」がある人物を殴りつけるシーン。「あっ!」と息を呑む間もなく、台所に立つ「少女」の軽やかなステップ。「ゴン!」と鈍い音が、「ストン」と着地する気持ち良さ。自由で無責任な人間が、見えない鎖を振りほどくように無軌道に動作するその瞬間と、自由を認められていない人間が、その束縛の中で凛とした自由を踏みしめるシーンが連動する。行動が時間を切り裂き、物語として着地するその瞬間、映画の歓びを感じる。

そうした美しい時間が幾度となく現れる。こういうの観に行ってるんですよね、俺。例えば、「少年」の父が、旧友を迎え入れるシーン。雪の降る寒々しい風景をバックに、単に車を降りて旅館に入るだけのシークエンスで、車の扉が閉まる音と、旅館の扉が立てる騒音がスリリングに交錯する。何でもないシーンを、如何に丁寧に、どのように取り扱うか。その選択一つで後に辿ることになる運命を暗示することが出来るということを、作り手が確信しているのである。

「人力で作り上げた奇跡」のような瞬間

状況や感情を切り裂くような鮮烈なエディット感覚は、もやっと弛緩した白昼夢のようなシーンでもまた、逆説的に効果を発揮する。映画の中盤で訪れる、「少年」と「少女」が二人で紡ぎあげた物語の一つの極みのような時間、暗い教会(ではなく、終業後の結婚式場)での長回しは、画素の粗さも相まって、人力で作り上げた奇跡のような瞬間に満ちている(何回撮ったんだろう…)。長回しで雰囲気のあるシーンながら、いささか衝撃的なストーリーの決定的な転機も仕込まれており、打算と奇跡が混濁しているこの構図は、「聖なる建物のイミテーション」である結婚式場というロケーションも相まって、聖と邪の混濁とピッタリと重なり合う構図である。このシーンは、韓国映画の大傑作の一つである『息もできない』の、あの川岸のシーンに匹敵する凄みを持った、心から美しいシーンだと思う。(異なる映画ですよ、勿論。鬼気迫る感じとか及んでないところも多々あるけど、系譜は一緒だと思う、俺は)

実は、この映画を撮った甲斐監督って俺の大学の同期でもあるので、観る前は(元々、同期が撮った映画とは知らずに、フライヤーを見て、観たいと思っていたので)期待もありつつ、同時に凄まじい不安を感じていた(「もし出来が芳しくなかったとして、そっと挨拶せずに帰る手段はあるのだろうか…」)。これが傑作だった。助かった…。

でも、嫉妬も感じたな。きちんと俎上に立ち続ける大切さも、改めて感じました。『息もできない』のヤン・イクチュンは、その後、きちんとした映画は撮れてない(俳優としては活躍中)けど、甲斐くんには映画撮り続けて欲しいなと思う。続けていれば、何年か後には、もっと凄い注目作を監督してくれてると信じてる。誇らしかったっすよ、マジで。

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