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わたしたちの家

「観客それぞれの心の中に正解はある」というような作品受容の形って、随分と定着してきたと思うんだけど、実際それを観客に納得させるには技術とかセンスが必要だし、往々にしてその試みは失敗していると思う。「それぞれの正解」問題って、手法だけがフォーカスされて、「メソッドとしてあり」みたいな単一解になるのはすごく勿体無い。(ヨルゴス・ランティモス『籠の中の乙女』はそれで失敗しているような作品だったと個人的には思っているが、彼はその後『ロブスター』という傑作をものした)
清原惟監督作『わたしたちの家』には、まだまだ脆弱な形をしているものの、その類の説得力が確かに存在していると感じた。

2017年のPFFでグランプリを受賞した本作『わたしたちの家』は、「わたしの家」の集積である「わたしたちの家」を礎に、複数(2つ)の物語〜時間軸が同時に、完全に交わることはないまま進行していくという非常に変わった作りの映画(記憶のレイヤーを巡る話である『わたしはゴースト』とかはちょっと近いかも)。
一軒の非常に変わった作りの古い家が主な舞台になっており、カメラが切り取るその室内風景はどれも美しく、ある種の完成されたミニマルさを持っている(アフタートークでヴィヴィアン佐藤さん曰く、重要な舞台である「茶の間」はたった2つの構図でしか登場していなかった)。その醒めた視点が唐突に動き出す時、例えば登場人物の二人が不意に思い出した歌を口ずさみながら室内を駆け回ったり、屋外の路をどこ知れず進む曲がり角などで、物語は唐突にダイナミズムを孕み、まるで動き始めているかのように感じるが、実際は時間も空間も前後不覚のままなのだ。

ジャンル映画ではないんだけど、そのメソッドが援用されていて、そこで演出される恐怖はグレイス・ペイリーやシャーリイ・ジャクスンのような、「平易な一見何事も起こっていないかのように見える状況の、なんとも言えない恐ろしさ」に通底するところがある。実験的でありながら、「この奇妙な事象をどのように捉えるのが正解なのか」という問いかけに力点があるわけではなく、割と劇映画的でオーソドックスな物語展開に推進力を持たせているように思えるところが印象的で、故に「正解など要らない」という説得力をギリギリのところで担保しているように思える。

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ヨルゴス・ランティモスのように、次回作で更に飛躍するんじゃないかと思わせる新人作家の登場を感じました。我々の生きる「日常」に対するちょっとした疑義を控えめに掲出する、実に挑発的な映画。どこにも着地することのない、永遠に形を変え続けるメタファーの作家だと思っています。

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