静かなる叫び
『灼熱の魂』(大傑作)撮る一年前、2008年の作品。日本未公開の映画を上映しまくる毎年恒例「未体験ゾーンの映画たち2017」にて鑑賞。これが未公開だったなんて(配給会社何やってた…)。
モントリオール理工科大学で起きた実際の銃乱射事件をモチーフに、その当事者たちがその日、そしてその後の人生をどのように歩んでいくのかを描いた作品で、ガス・ヴァン・サント監督『エレファント』を思い浮かべるが、フォーカスすべきと勝手に思い込んでいるところと少し外れたところに力点があるのがこの監督の面白いところ。例えば、銃撃そのものは、物語のごく一部でしかなく、それどころか犯人の物語にも焦点を当てない。三人の主人公たちが、それぞれの視点を交差させながら繋いでいく「バトン」が物語の推進力になっている。
女性によって人生を破壊されたと信じ込み、フェミニストを殺害するために、工科大学に忍び込んで女性を無差別に殺害した犯人。その一方で、女性が乱暴にさらされている性差別の被害者でもある女主人公と、極限状態で「男性」に与えられた役割の重圧に脅かされる男主人公。「銃乱射」という 一種の緊張の極を中核に据えながら、これは実は「ジェンダー」にまつわる物語でもあるということが、かなりシンプルに提示されている。シンプルな筋書きの中に、いくつもの複雑なテーマを並走させるのが本当に上手い監督だと思う。
全編白黒映像。いつも画に諦念にも似た静謐さが宿っているヴィルヌーヴ作品であるから、あえてモノクロームにする意味は薄いんじゃないかなーと思いながらの鑑賞だったが、中途に出てくる、流氷を映しながら永遠に視線を先に逃していくカメラには驚かされた。黒い水と白い氷のコントラストに一瞬のゲシュタルト崩壊を促されたり、夢と現実の境で、無いはずの色が見えてきたり、後半に進むにつれ白黒映像の凄みが際立ってくる作りには心底ビビらされる。
やはり痺れる映画監督ですよ、ヴィルヌーヴ。3月にもまだまだ上映があるみたいなので、気になる方は是非。

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