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アンドリュー・ブジャルスキー『Funny Ha Ha』/流されて生きる俺たちの、見えない壁としての社会

「マンブルコアのゴッドファーザー」ことアンドリュー・ブジャルスキーによる、マンブルコア最初期の伝説的な一本。公式に買えるVimeoの動画だと字幕もないので躊躇していたんだけど、もごもごすぎてネイティブでも聞き取れないぐらいらしいから、もうこりゃ無理だと思って英語わからないなりに観た。レナ・ダナムが聞き取れなくて11回見返したというラストは、マジで全く意味がわからなかった。何度か見直さなきゃならない、というのは前提だけど、でも凄く面白かった。

「タトゥー入れるの痛い?」「一回目が一番痛い」

酔った勢いで彫ってしまおうと立ち寄ったタトゥーショップで説教され、仕事はクビになり無職で、やることなすこと上手く行かないが、パーティ行ったり友達と遊んでなんとなく楽しく生きている主人公マーニーが、片思いの相手アレックスや、友達の彼氏デイブ、元職場の同僚ミッチェル(ブジャルスキー本人が演じる)らと、油断しているとすぐに脇道に逸れる会話同様、どこに行き着くでもない関係をダラダラと続けていく。

「恋人がいないなら、僕と…。えーと、その。なんか話続けてよ」「あー、じゃー、好きなテレビ番組は?」

同じくマンブルコアを代表する一本『ハンナだけど生きていく!』(こちらは運の良いことに『ハンナはいつも、アイされたい』という謎の邦題ながら、Prime Videoで観れます)のグレタ・ガーウィグのように、男たちを渡り歩いていくあの自由さではなく、流されるが故の諦念のようなものが漂うマーニー。どこにも行き着くことのない人生の切れ端が、静かなドラマの形を取って横たわっている。意味のわからなかったラストシーンだけど、快晴の公園で、好きな(好きだった?)相手と美味いサンドウィッチを食べる光景に特別なドラマみたいなものは一切感じられず、フリスビーに興じる男たちを「dorks(だせえ奴ら)」と罵りながら、彼らと自分たちを分かつ、そしてそれが時に簡単に破られてしまうような脆弱な距離感でそびえる見えない壁、それそのものを「社会」として客観視しているような、僕らの人生と容易に接続できる平熱の物語。

「ベンチ傾いてるけど、座る?」「やめとこ。芝生で」

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