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ムーンライト

「あの『ラ・ラ・ランド』を押さえて作品賞を受賞するなんて、どんな映画なんだ」って思えたなら良いほう。どっちかというと前評判として聞こえてくる「地味だけどいい映画」的な評価とか、そもそも「政治的な理由で穫れた作品賞」なんて流言(…とは言い切れないのかもしれないけどさ)もあって、絶妙に観る気が萎える環境に置かれてる『ムーンライト』。「黒人」の「同性愛」を扱った映画であれば、黄色人種のヘテロセクシャルにとって、別世界の話として遠ざけてもおかしくない。深夜のTOHOシネマズ新宿で観ましたが、これ、直球で素晴らしい。直球で素晴らしい、ということをあえて世界に喧伝したい。『ラ・ラ・ランド』を破るのも納得の傑作で。

映像の美しさは特筆に値する。ウォン・カーウァイ〜クリストファー・ドイルの影響が語られているが、それも納得のアブストラクトな表現が頻発。陽光に煌めく波の表現や、黒い肌を彫刻のように魅力的に見せる青の光線が眩しい(実際の技術的な解説については、町山さんのラジオ書き起こしを参照のこと)。その効果もあって、ナオミ・ハリス演じる母親も若い頃は精力的に見える(が故に主人公にとってのトラウマとなるのだが)。しかし、荒れに荒れたまま年老いていく生活の反映として、増えたシワや肌の衰えが、光線を上手く反射しなくなる演出がにくい。その一方で、母のような慈悲を注いでくれるテレサは、死期にある象のように年老いた姿を見せることはない。

ホモセクシャルを理由にイジメられる主人公シャロン。その心の壁を破壊するような造作で、唐突に彼の人生に登場するドラッグディーラーのフアン。彼に教えられた「自分の道は自分で選べ」という言葉を実践できぬまま、不器用に歳を重ねてしまうシャロンが、自分の道を一歩踏み出すまでの物語(この構造って、男女反転版『キャロル』を感じたりもした)。メンターであるフアンの姿形をなぞるように、一見、別人のようになってしまったシャロンが、久しぶりに再開する旧友の前ではやはり口数少なかったり、強面なのに酒は飲めなかったりするところに、「三つ子の魂」を感じてしまい、愛おしさを覚える。ジュークボックスの曲があれだけ雄弁だった例を、俺は他に知らない。

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ラストシーンで交わされる「とある抱擁」は、彼の未来を明るく見せるようでいて、着衣の様に少しの距離感を感じたりして、安易に着地させない、心地よいモヤモヤを残すところが素晴らしい。三人の主演俳優が、一見全然似てないのに、醒めた目だけが共通しているのが印象的だった。

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