日本映画史に名を残す女優の一人。川島雄三監督作品『しとやかな獣』では、経理の女性役を演じ、映画の複雑な人間模様に深く関わっている。鋭い演技力で知られ、当時の日本映画界を代表する存在として、多くの作品で印象的な役柄を演じた。その演技は、社会の陰影や人間の複雑な感情を鮮明に描き出す力を持っていた。
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川島雄三『しとやかな獣』/慇懃と腐敗と
何気なく観たらやられてしまった。1962年公開の川島雄三監督作。汚い団地の一室で、驕奢な家具をしまい込み、貧乏くさい着物に着替える初老の夫婦(伊藤雄之助と山岡久乃)。手際よくテレビなんかを片付ける姿に訝っていると三人の来客があり、ああ借金取りか何かかなと早合点で、夫婦の息子・実が会社の金に手を付けたという。「うちの息子はそんなことをするような子ではありません」、慇懃に対応する夫婦も、件の来客が退散した途端に家具を元に戻し、戻ってきた息子と更なる横領の計画を立てる。
売れっ子作家の妾となった娘にはもっと搾り取れとハッパをかける夫婦もヤバいが、押しかけてきた作家当人も傲慢を絵に描いたような人物。若尾文子演じる経理の女は、自分の旅館を建てるために、実の横領の手助けをしながら、色仕掛けでその金を巻き上げる。出てくる人物が揃いも揃って、腐臭を放つネズミのような性根の者ばかりで痺れる。
騙しあいに化かしあい。こすい謀が縦横無尽に張り巡らされる団地の一室には、至るところに外部につながる窓があるが、どれも身体が通らないぐらい小さかったり鉄格子に収まっていて、牢獄のようにも見えてくる。家族や悪い仲間同士になれば慇懃さが消え失せ、各々が好き勝手にお互いを罵ったり、更なる悪事へ誘うのだが、家の壁や天井、格子によってお互いが分断されていて、一生交わらない世界のようにも見えてくる。
こうしてエスカレートしていく悪辣は、幾度となく間隙を突くように唐突に遮られてしまう。例えば、切ったメロンを片付けた後に、過去の貧困を噛み締めて、そこには二度と戻れないことを確認したり。例えば、白黒テレビから流れるダンスの狂乱に身を投じる姉弟の前景で、仏頂面でそばをたぐる夫婦だったり。例えばラストシーンの殴りつけるような雨と、置き去りになった鞄とか。その横軸が、この物語に決定的な暗い影を落とし、各人のいい加減さの背景に横たわる惨めな感情が露呈してしまうのだった。