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杉田協士『春原さんのうた』/大事な疵を迂回する

中心にあるものを迂回し続ける。とにかく、周りに気を使われている主人公さっちゃん。具体的に明かされることはない、彼女の抱える心の闇。しかしそれは適切に提示されているので、いつか必ずわかるはずなのだ。連絡もなしに度々訪れるたけしおじさん、おばさん、劇団の人、友達、とにかく…。

たけしおじさんは度々、ふわふわとした何らかの理由をつけてはやってくる。鉢合わせすると、何故か押し入れに隠れるおばさんとの間には何かあったのか、なかったのか。なかったのか…?と思わせるようなタイミングで、のこのこと押し入れから出てくるおばさんはリコーダーを吹いている。おじさんもどら焼きを3つ買ってくる。本来は余分であった、もう一つのどらやき。たまたま3人揃ったけど…。

そしてリコーダーは鳴る。自分が働いているカフェの常連であった日高さんの部屋を、そのまま受け継ぐ形で引っ越したさっちゃん。そこにたまたま残されていたリコーダー。玄関を隔てる格子と、格子柄のマグカップ。カフェの一階にある大きな窓にも、変わった形の格子がハマっていて、その前で喪服姿の二人が入店に手間取っている。塩。聖なるものが欲しい。

みなが、失われた何かを探している。それぞれがそっと手を差し伸べる。迷子になった女の子に案内をしてあげるさっちゃんだって、そう。迷子の女の子は、失われた何かを見つけようとしている。北海道からやってきた友達は、見知らぬ人に道案内をお願いする。

3つ目のケーキを気遣いだと思って「ありがとう」と言うと、「いや食べようよ」と言う友達。ささやかに主張するもうひとりの影は塗りつぶされていく。遠く、北海道まで。

空間にも、時間にも、音にもたっぷりと余白が取られ、それでいて上映時間は2時間で、そして緊張感は持続している。いやはや、こんな凄い映画が撮れるんだと、素直に感心した。杉田協士監督作。

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