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アオラレ

あの太り方はいよいよPoint of No Return…。でっぷりと太ったラッセル・クロウが、ひたすら母子を追い詰めまくる恐怖映画。ラッセル・クロウ版『激突』かと思ったら、マイケル・ダグラス主演『フォーリング・ダウン』などと近い「イラつき不寛容な現代社会」をテーマにした、その実かなりマッシブな暴力映画。オープニング「煽り運転」が如何に大変な問題なのかを煽るノンフィクション映像で、現代アメリカの交通事情にのんきに驚き、「こんなにハードル上げて大丈夫なのかなー?」と思っていたらやすやすと越えてくる狂気のラッセル・クロウ。対するは、初っ端から「目覚ましかけ忘れた!」という取り繕う隙もない程清々しい大遅刻から颯爽と登場する、狂気の怠惰お母さん(カレン・ピストリアス)。サイコパス vs 怠惰という、共感しようのない物語のゴングが高らかに鳴り響く。「目覚ましかけ忘れた!」、ですよ。これまたマッシブなダメさ。

序盤は怠惰なお母さんのポテンシャルが観客を圧倒する。自分のせいで大遅刻して顧客を失い、ロックもかけていない無防備な携帯を車中に放置、ガソリンを入れるのも面倒なのでホースを挿しっぱにして買い物している間に、気づいたらラッセル・クロウに車の背後を取られている。車のメンテナンスも怠っているから窓は閉まらず、喋りかけてくるラッセル・クロウに啖呵を切る。挙げ句、追い詰められてパニクったっつうのもあるけど、何にも非のない(元)顧客を危険に晒すし、警察への連絡もことごとく的を外している。それより何よりヒヤヒヤさせられるのは、運転の最中に頻繁に後ろを振り返るところ。前を見ろ、前を。それもかなり長い間前を見ないので、いずれにせよいつか大事故を起こしていたと思う。早めに免許を取り上げて欲しい。

全く共感できない我らがヒロインを追い回すサイコパス=ラッセル・クロウに対するかなり高めに設定されたハードルは、それを上回るあまりの非道っぷりにあっけなく乗り越えられる。しかも、こいつはかなり厭な方向に頭の回るやつで、お母さんがパニクってるのもあって、しっかりと計画的に追い詰めてくるのがすごい。こうなってくると、トップクラスの打ち合いである。「どっちも頑張れー」というぐらい、同情できない、周りを巻き込んだ悲惨なばかしあいが始まるのであった。

サイコパス野郎の背景も言葉少ななのだが、対するお母さんも、弁護士のセリフ(「20分って、レイチェル時間で?」)やデボラの対応(「あなた、自分の店を失ってから、いい加減すぎない?」)から、はっきりと意図的にこういうキャラクターを作り上げたのだとわかる作り。息子を悲しい涙に誘う離婚の件ですら、ダイナーでの弁護士のセリフから、誰の何が悪いのかさっぱりわからなくなるかなり怪しげな雰囲気。この双方向に容認できないキャラクター設定も、四方を囲まれた渋滞のようなイライラを疑似体験させるよう、しっかりと計算されたものだったように思える。割と容赦ない暴力描写が続くので、そういうのが苦手な人にはオススメできないが、かなりハイレベルなイライラエンターティメントを演出してくれるので盛り上がってしまう。デリック・ボルテ監督作品。「不安定な」という意味の原題「Unhinged」を、意図も豪快に無視してただただ「アオラレ」とした日本の配給会社の暴力的な決定もナイスな一本。要らないよね、深慮遠謀のフリなんて!

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