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このテープもってないですか?

大森時生さん(『Raiken Nippon Hair』『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』)関連の新作ってことで大期待して鑑賞。めちゃくちゃ面白い。面白いけど、全く解らない。いや、解る必要はない、必要なのは理解ではなく、体験。ただただ不気味な30分×三夜。事前知識はなければないだけ楽しめるので、知らない人はTVer直行すると良いと思う。楽しんで!


ここからは観終わった人向けの話なんですけど、いやー。解りました?俺、なんにも解らないし、これは難物になりそうだぞ…と考察記事を書くほどのとっかかりすら掴んでいない気がするので、とりあえず気になったことを書き連ねておくことにします。以下ネタバレです。気づいたことあったら追記していくかもしれません。

  • ある視聴者から坂谷一郎のミッドナイトパラダイスという失われた番組のVHSが送られてくる。この視聴者が、埼玉県在住の隠戊宏光(おんぼひろみつ)で、tiktokアカウントあり。第一夜で放送される三本目のVTR(一番不気味なやつ)の投稿者は「埼玉県の御戊」(読みは異なる)。

  • 第一夜一本目のVTRが、「地獄絵図」と称されるが何のことない鯉の餌やり(めちゃくちゃ不自然で不気味なジャンプカットあり)。鯉の口が苦手な坂谷。

  • 二本目、セミの抜け殻を食べるおじさんのVTRを見た後に、スタジオで同様のものを食べさせられる坂谷。VTRでは天日干ししているが、スタジオでは「脱ぎたてホヤホヤ」とのことで、「土の味する」と当然不味そう。何か別のものを食わされている可能性?

  • 不思議な「パイロットの話」。「副操縦士が同じものを食べると、一緒に落ちてしまう」。寄るカメラ。

  • カメラが引き気味なので実際何が起こっているのかはわかり辛いが、「昔から方向音痴」と述べる男性(?)の顔が、プロジェクションされたように身体から分離しているみたいに見える三本目は、屈指の恐怖映像。落ちる布団。誰もいないベビーカーに話しかける男性(?)と赤ちゃんの泣き声。一瞬入るノイズに胎児。近づいてくる無人のベビーカー。「大丈夫大丈夫、一緒に行こうね」

  • VTR直後、坂谷の呆けが発生し、二夜に渡り、朝戸わたる〜四つ木寿郎へと伝染していく(坂谷は二夜の冒頭でも、スタジオ右側の奥を凝視する場面があり、その直後に異様な哄笑)。呆けの後に、止まらない哄笑も発生していることに注目。この哄笑は、スタジオの井桁さんにも見られる。

  • 父親の喫煙習慣に不満を述べる(述べさせられる)男の子と母親を収めた四本目。その前のVTRで呼びかけられた謎の人物は「タカツキさん(?)」だが、この投稿者は「高村」。

  • スタジオに戻るといとうせいこうと井桁さんはVTRを絶賛するが、内容と噛み合っていないことが多く、その傾向は後半になればなるほど顕著になる

  • 映画監督生島勉が『東京物語』を評して「俺が撮ったらもっと酒池肉林のすごい東京物語を…」と話すと、坂谷は「酒池肉林って言っても、酒で池を作らなきゃならなかったりそれなりに大変」とこの辺からおかしなことを言い始めている。

  • 生島勉が、東京生まれの江戸っ子で、漫才師を目指して挫折した、という謎の情報がいとうせいこうからぶっこまれる。生島勉が、朝戸わたると結婚していた説あり。

  • 二夜の一本目は、暗闇を怖がる子ども。誰もいないはずの部屋に、同じような格好をした子どもがいる。ここで朝戸わたるが呆ける

  • 二本目がエスパー婆さん。後ろの鏡に胎児。この婆さんはスプーンを曲げる。

  • 三本目で、人見知りなペット「ぺぺちゃん」。床に置かれたテレビ。暗がりの奥に、ベビーカーの影と赤ちゃんの声。その押入れから、黒い影が滲み出てくる(この黒い影は至るところに登場する)。VTR明けで四つ木が呆ける。

  • 何度か同じ台詞を話したり、同じようなことが繰り返されたり、謎のノイズ、音の変調が発生する。二夜目から、不自然な編集も多くなり、スタジオのデジタル時計の表示にも不自然な飛躍が見られるようになる

  • 朝戸わたると父親の話。二夜四本目のVTRで、父親が賛成してくれないミュージカル女優の話が出てくる際に、隠岐の島出身であることを告げる。「娘が死んだと聞いた後に、健康祈願のお参りに行くような父親」。父親の話をしている最中に、「娘が死んだ」とは?

  • 「パノプティコンとの親和性にもうるさいし」という謎の台詞が出てくるが、この「パノプティコン」はおそらく重要ワード。「波止場に泊まったことのない人には常識とかどうこうは言わざるを得ないような雰囲気なんですよ」

  • スタジオに登場する超能力者アリ・ミラーだが、スプーンを曲げられずに終了(ただし、映像は突然終了するので、曲げられなかったところを見ているわけではない)。その際、奥を凝視する朝戸わたると、鳴り響く赤ちゃんの鳴き声。

  • 「北はノルウェーから、南はタイまで世界中を騒がせた」と、中途半端な世界観。急に昆虫食の話をし始めるいとうせいこう達。この辺、イヤホンで聞くととんでもない音が聞こえてくる。

  • 坂谷が突然の口上。TVerの第三夜のコメントにも記載あり。「芒に月、出鱈目の坊主が真っ黒に塗り潰した枯尾花。花の蕾の羽化と同時に裏返った全展望監視の円筒形、円筒と管と消化管、胃袋以外のすべてを露出した両生類」。パノプティコンが再度登場する。

  • 「全展望監視」のシステム(パノプティコン)とは、すなわち西洋の刑務所にあるような円筒形の建築で、一人(少数)から、大勢を効率的に監視する仕組み。それが裏返っているのだから、ある中心を大勢で監視するような仕組みになるはず。

  • 三夜目で、現代のスタジオの話も完全に破綻。「窓」「夜」のワードが出現する。哄笑する井桁さん。

  • 坂谷たちも「もう消えるしかない」というムードに。会話は破綻している。

  • トークゲストにベビーカーのシルエット。幕が開くと誰もいないが、番組は普通に進行し、ところどころで透明なゲストが話しているような間が取られたり、そちらの方に会釈したりと、存在が感じられる。「日向にいると逆説的に日陰にいるやつのことも解るだろうし」。爆笑する井桁さん。

  • 「感覚」と「リゾナンス(共振・共鳴)」という言葉が出現。スタジオの会話でも「音叉」という言葉が出てくる

  • 「咀嚼を経てお皿に戻る二枚貝」など、「逆進」がテーマ?それに「気づけなかったなあ」と嘆いて笑う坂谷と一同。

  • 一本目のVTRは、染み出した黒い影が人の形を取り、消えていく。爆笑する一同。

  • 「よかったー。文字通りの十億のポストモダンでは、アングルムのソマニア(?)にはならんからなあ」との坂谷に、「私も、これ思ってたことです」といとうせいこう。完全に共振してる。

  • 「暗いから、夜という言葉を作った」「需要が言葉を作る」「見えないものと見えてるものが混同した」「目をそらそうとして窓の外ですか」「暗かっただろうなあ」

  • 呆ける朝戸わたるの画。ユルグ・ブットゲライトみたいな演出で死ぬほど怖かったです。

  • 二本目のVTRで、「まさし」に語りかける女性。水音が響く中、男性が横切り、床に黒い染みが広がる。こちらを向いて固まる女性と男性。

  • 「何もないところに頭を下げる」「怖い話は止めてくださいよー」

  • 三本目は引きこもりの「たける」。一度のノックは「YES」で、二度は「NO」。たけると一緒に玄関まで来たところで、大きな二度のノック音。「暗がりから出てこないと、坂谷さんみたいになっちゃうよ」

  • 「坂谷さーんいつも見てます」の女が「排水溝から声がするんですよ」と言う四本目で、不自然な編集と共に「排水溝から」「いつも見てます」。黒いもの(何?)だらけの風呂場の排水溝から声が聞こえ、中に一瞬うっすらと胎児の姿が。「うちのお父さん、よくこんな声してた」。排水口に手を振り「坂谷さーん!」

  • 今更「排水溝以外のところも、不気味な感じしますね」と四つ木。排水溝の話はループする。「暗くなるし、汚いものは溜まるし」。水が汚くなる、というイメージは、一夜目から。スタジオ爆笑の会話の意味は、全く解らないし、文字起こしも無理。「玄武岩」?「アヴァロン」?

  • 「認識のすり合わせ」についての会話が始まり、赤ちゃんの声が大きくなる。「窓」→「外」。全ての言葉を真に受けて、詳細に分析していくのは筋が悪そう。

  • 「胎児の視線」。暗いところから、胎児がこちらを覗いているというイメージ。4:3の画面比を利用した、胎児の登場が象徴的。

  • 「ここは暗い場所だっていうのが、わかってるんだろうなあ」スタジオの天井にズームするカメラ。「大丈夫大丈夫。もうすぐだから」

  • お腹の中の音と、テレビのホワイトノイズが似ている、という話。「そんな音が、ノイズだなんて」。

  • 坂谷スペシャルインタビューと称して放送されるのは、大病にある入院患者のような坂谷(?)の姿と、暗闇にボーッと浮かぶベビーカーと、苦しそうに唸る男性の声。

  • 「時期的にも情操教育にいい」「もうとっくにダメです」「彼にとっても糧になる」「もうすぐなんで、大丈夫で…」ブツッと切れて番組は終了する。

全編通して登場する「胎児」は染み出すような暗闇の中を彷徨する。彼は新生児が故に目が見えず「方向音痴」であるが、光を感じることは出来る。パノプティコンは裏返っているので、暗闇の方に進むことしか出来ない。「ミッドナイトパラダイス」のスタジオは、坂谷たちの曰く「暗い場所」であるから、胎児は自然そちらの方へ向かっているはずなのである。

では、その「胎児」とは一体何なのかWikiを見ると、坂谷には不倫〜隠し子騒動の過去もあるようで、水子的な何かや怨恨から、何らかの呪いにかけられた可能性もあるだろう。また、隠戊宏光のTiktok動画にある、行方不明児童が関係ある可能性もあるし、この胎児は坂谷自身であって「もうすぐ」輪廻することを示唆している可能性もある。もっと見逃せないのは、この出演者の何人かは既に死んでいて、この「ミッドナイトパラダイス(夜の極楽)」のスタジオ自体が黄泉の国である可能性もあるだろうということ……。

正解を探ろうとすればするほど野暮になる。パズルのピースは番組内の至るところに散りばめられているが、この程度の考察では、どれを採用してもどこかで上手く噛み合わなくなる。そもそも番組の中の情報では不十分である、ということを前提にして、各人の解釈違いを楽しむのが最高に楽しい、不気味な形而上ミステリーを堪能した。

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