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フィル・ティペット『マッドゴッド』

原始、土塊に命を吹き込むのは神の仕事だったのだから、「アニメーター」とはまさに「神」であるに違いないというのは単純な一次方程式であるが、ことにその変数xに入るのがかのフィル・ティペットなのだとしたら、それは正しく「マッドゴッド」と呼称せざるを得ないだろうな、『スターウォーズ』のチェスとか、『ウィロー(新作ドラマ、良いですね!)』のトロールとかを観て育った人間としては。ワクワクの裏側に、いつもねっちょりとグロテスクな何かを塗りつけるのが彼の仕事。その微量にして強烈な何かに、僕らは毒されて生きてきたのである。

そういう意味で、「地獄」と言い換えても差し支えなさそうなこの映画の世界に、一本の心もとないケーブルに揺られながら降りてくるエレベーターは、この「マッド」な世界の脳髄を現実から頭皮を抜けて、垂直に降りてきているに違いない。バビロンの塔よろしく、小さな生命体が建てている大きな建造物が、電撃にドカンと破裂する時、何らかのイマジネーションが爆発している。圧巻。こんなもの見せられたら何も言えない。

荒廃し、文明の残骸のようなものが転がる表層から、みなさん大好き「地獄巡り」を通して、脈絡のないイマジネーションの表出と忘却の断片が、ほぼ悪夢の似姿として繰り返される。電流を浴びる大勢の巨人たちは汚物を垂れ流し、それを浴びるように飲み込んでいる異形の化け物。腐鋼と錆鎖に視界を塞がれた巨人たちの不毛で容赦ない殴り合いと、サディスティックな使用主による罰としての加虐。ミミズを吸う極彩色の愛玩動物が、更にけばけばしい毒蟲に引きずられていく。

止めどない妄想とイマジネーションの小爆発。その落し子を巡る物語が、この映画のもう一つの軸となる。フィル・ティペットの脳髄が絶え間なく産み落としていくおぞましい赤子が、堕天使のような何かによって収集されている。絶え間なく続く争いの描写は、彼のイマジネーションがもたらす苦痛の隠喩であって、その核を覗かんと送られた使者たちは、幾度とない死を迎え、その記憶すらも次のイマジネーションの源流となる

惑星が直列してしまうようなある種の奇跡を以てこの不毛の物語は一旦の終わりを告げるが、当然、永劫回帰は今も続く痛みと悦びの源泉となっているのであろう。才能と、それに伴う犠牲。このイマジネーションの圧力に気圧されながら、気楽な他者を気取る僕らは、やはりフィル・ティペットの遠い子どもなのだろう。

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