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ミシェル・フランコ『ニューオーダー』/風刺の底に淀むポエジー

暴力革命が成し遂げるのは、平等や平和ではなく、次の抑圧である。円環が見事に閉じる結末に、思わず声が出た。ミシェル・フランコの新作は、ディストピアSFの皮をまとった風刺映画。メキシコで軍部を中心とした革命が起こるが、金持ちから末端の人間まで、何が起こったのかを正確に知る術を持たないが故に、極度の混乱が身の回りを満たしている。

情勢の不安定さを鑑みずに強行された主人公のマリオンの結婚式。父親の取引相手が惜しみなく渡してくる派手な祝儀を、丁寧に自宅金庫にしまう母親に対して「パパが渡した賄賂の何パーセント?」とあくまで冷ややかなマリオンは、軽やかに小便を済ませる。その母親が蛇口をひねるとペンキのように鮮やかな緑色の水が放出され、思わず全国で激しさを増しているデモの旗印であるを連想してしまう。ギョッとして夫を呼びつけると、水は正常に。いたずらを疑った母親は、犯人を探すよう使用人に言いつける。どうでも良いことをあれやこれや押し付けられているであろう使用人たちが、あからさまに嫌そうな顔を浮かべる台所。

そこに、一人の男の訪問あり。曰く、入院中の妻が病院を追い出され、私立の病院に入るには20万ドルかかると言われて途方に暮れている、とのこと。「あなたがうちで働いていたのは何年前…?」と応対した母親が言うと、「8年前…」とさすがに昔すぎる…よね?わかるよね?と確認した後、それでも振り絞るように善意を働かせ、お祭り騒ぎの結婚式会場をおざなりに巡って3万5000ドルを渡す母親に、それじゃ足りませんとの旨。見かねたマリオンは、身内の吝嗇への怒りと、旧い使用人への善意を爆発させ、自身の結婚式の最中に元使用人の妻を救うために混乱の街中へ車を走らせる。

前半、結婚式を映した前半があまりに流麗で、それが故に理解がすんなり。静かな一カットごとに、物語がグイグイ進む。「彼らは金を出すのか」が争点になるかと思っていたら、その向こう側を捉えた、静かで地味だが戦慄のラスト。ここに描かれているのは、「弱きを救う」というお題目によって殺されるのもまた弱きもの、という地獄であるが、一方で確かにこれは現実でもある。

冒頭の緑色のヌードは、人によっては不要と思うのかも。でもあえて、このヌードに込められたポエジーについて、思いを馳せたい。詩を理解する国で、あのヌードが不要だとみなされる国はあるのだろうか。その理解は、皮肉を、諧謔を、そして分断を想うための一助になるに違いない、と信じながら。

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