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ファーザー

イモージェン・プーツが出ると知っていたら、もうちょっとドレスアップして行ったのに。

とは言え、アンソニー・ホプキンスのチャームが全開である。大はしゃぎでタップダンスを踊ったかと思ったら、突然すっごく厭なことを吐き捨てる。正しく咀嚼できないタイプの支離滅裂さ、事前知識のある我々には「認知症の問題」と把握しているこの支離滅裂さに、映画自体が飲み込まれていく。予め聞いて想像していたのは、ある種の(主観で言わせてもらえば「チープ」な)サイケデリックな映像表現であったが、そうではない。むしろ、デヴィッド・リンチの試みなどに近い、時間と認識の不整合を素面で組み立てたドラマである。真顔で、しれっと。前提知識がなかったら、消化不良のサスペンスとして認識してしまったかもしれない。

開始十分からネタバレしたくないシーンが矢継ぎ早に繰り広げられるこの映画の、物語と構造についてネタバレせずに語るのは難しいので、それについて詳説することは避ける(行って欲しい、映画館に)。その代わりに、自分だったら再度確認したいシーンを書いておく。何度か登場する「写真」には、二人の娘と男が写っている。暖炉の上に飾られた絵画。キッチンには、いくつもの台所用具と調味料やワインが置かれているが、その配置は頻繁に書き換えられている。何度か印象的に映し出される、各部屋のショットと位置関係。青い買い物袋。窓の外に広がる景色。娘(たち)の顔。

アカデミー主演男優賞ということもあって、アンソニー・ホプキンスの怪演(?)に目が行ってしまうが、繊細な演技で場の空気を支配してしまうオリヴィア・コールマンの凄みにも是非注目して欲しい。原作を執筆した作家フローリアン・ゼレール自らが手がけた初監督作というのもとんでもない話だな…。作りが端正すぎて、印象がこじんまりしてしまうのが欠点のような気がして、贅沢な話だなと思いますよ。

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