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スワロウテイル

中国語・日本語・英語がめちゃくちゃに混ざりあったマルチリンガルのチャンポン。流暢な猥談が始まるあたりで、「何故か観ていなかった日本映画」の一本であった本作の評価が決まった。こういうのを観ておかないと映画のパースペクティブが狂うから要注意だな、と自戒。そもそも、岩井俊二監督作品を観るのが初かもしれない。

この言語チャンポン、演技が下手な人も、多言語が苦手な人も、この設定で全部チャラにしてしまうナイスアイディアにして、別種のハードルが高い。しかしながら、その当時ほぼ新人であった伊藤歩、渡部篤郎、中国人よりも日本語が下手な中国人を演じてみせた江口洋介は圧巻。どこかうっすらとスベり続けている日本人の演技を見ていると決して演出が良いわけではなさそうだが、その代わり世界観と脚本に無二の魅力がある。

母を亡くし孤児となった「アゲハ(伊藤歩)」を、たらい回しの末に引き取るグリコ(CHARA)。グリコは、「円盗(イェンタウン)」と呼ばれる不法移民街のちょっとしたアイドル的な娼婦で、その歌を聴きにフェイホン(三上博史)ら仲間たちが集うほど。ある日、グリコの客が暴れだし、それを隣室に住む元ボクサーの友人が殴るとそのまま落下、帰らぬ人となる。その腹の中にシナトラの「マイ・ウェイ」が吹き込まれたカセットテープが埋め込まれていたことを発見(奇想!)。そのテープを解析すると、波形に「フクザワ紙幣」の磁気データが埋め込まれていることを発見するが、そのデータはリョウ・リャンキ(江口洋介)率いるマフィアの偽札作りに必要なものであった。そうとは知らないイェンタウンの仲間たちは、その磁気データを使った稚拙な偽札で不法に金を儲け、それを元手に作ったライブハウスの目玉として、グリコを歌い手としたバンド「イェンタウンバンド」を結成する。

グリコの胸に掘られたアゲハ蝶のタトゥ。それを起点に、名もなき孤児は「アゲハ」と名付けられ、グリコと同じくミッキー・カーチス演じる闇医者の手によってタトゥを掘られた時に、芋虫だった彼女も蝶となる。グリコはそのままアゲハ蝶のようにショービズ界を上昇し、そのグリコの胸に掘られたアゲハ蝶を映した広告はクレーンに吊るされて空を飛ぶ頃、生き別れた兄がその存在を知ることになる。縦軸と横軸が見事に交錯している

大枠での出来の良さに加えて、細かいところでも心惹かれる箇所が多い。ブライアン・バートン・ルイスのギタリスト姿。ゴア描写のフレッシュさ(邦画の傑作ゴア描写をここで更新してたとは思わなかった。見くびってた)。阿片窟の悲惨な様相、目の前に立ちふさがるも結局何もしてこないタイプのジャンキーの実在感も見事。あと、偽札グループの存在を予め調査していた渡部篤郎と山口智子のスナイパーチームが、最終決戦のケレン味を演出する手管も楽しい。渡部篤郎のキャップには「GUILT」って書いてあるんだぜ。罪を背負ってるんだ。

100%良い意味で、学生映画っぽいノリと、そこからはみ出たセンスが爆発している。むしろこんな映画、今、日本で誰が撮れるんだろう…と思うとすごい才能だ、岩井俊二。何故日本映画界は、彼に対してこういうテイストの映画をさらに大きな規模で撮れるだけの投資が出来なかったのか。本人が興味なかったんすかね。気になっています。

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