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ゴジラvsコング

前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(以下、KOM)』における「人間の描けてなさ」に絶望したクチなので、その点、全く期待せずにむすこと一緒に鑑賞。反面、怪獣の描き方に対するモンスターヴァースのこだわりは信頼していたので、過去の名シーンを振り返る冒頭のモンタージュで大興奮して、入場料分の元は取ったな、と。しかしここからが凄かった。流石、マンブルコア人脈のアダム・ウィンガードだぜ(『サプライズ』大好きだからさあ)。

今回のゴジラvsコングの素晴らしさは、下手なメロドラマを採用しなかったところにある。『ゴジラ』の無駄な家族描写(現ワンダ・マキシモフ姉弟の夫婦描写、ほぼカットして良かったよね)、『KOM』の支離滅裂人間ドラマと比較して、今回は「KAIJU映画に出てくる人間の役割は「機能」でしかない」としっかり割り切っているところが成功の秘訣。コングチームは、コングと意思疎通の出来る聾者の娘と研究者の母、そして地球空洞説を唱えるヤバい学者の三人がメインとなり、コングたちと地球の中心に向かう。対するゴジラ側には、ヤバい母さんの娘として前作KOMにも登場した我らがイレブンことミリー・ボビー・ブラウンと初登場のボンクラ男友達(「HTMLさわったことあるぐらい…」)、そして彼女がご執心の陰謀論者(と呼ぶには、しっかりと数年間組織に潜入していたりして、単なる机上の空論を振りかざしているだけの男ではない)。こちらは、ゴジラが突然人間社会を襲うようになった謎を探る、若干頼りないがジュブナイル的にワクワクさせられる布陣。そして、ヤバい陰謀を張り巡らす企業「APEX」側のチームには、ヤバい学者芹沢のヤバい息子(小栗旬)がいてヤバい。この三者が三つ巴となり、コングとゴジラの闘いを動かす重要な因子として働くことになる。

人間側の動きには、感情を起点としたものはなく、基本的には機能だけが与えられている。突端はあまりに乱暴な説。「地球の真ん中は怪獣たちの故郷だったはずなので、規制本能のある怪獣=コングに案内させるべ(できるっしょ!)」。こちらも大企業からの援助で、「ラスベガス一週間分の電気」を発電するユニットが必要なぐらいの、強烈に反転するGに耐えうる乗り物を提供され、いざ地球の真ん中へ!と意気込んでいたら、大海原でゴジラに遭遇。という筋書き。

モンスターヴァース、というか最近のハリウッド大作の傾向で、とにかく地球が狭い。アメリカから一瞬で香港へ飛ぶ都合上、どこに誰がいるのかさっぱりわからなくなるが、あくまで機能で記号。序盤で思わせぶりに散りばめられた伏線、例えば、懐中に亡き妻の形見であるウィスキーを忍ばせる陰謀論者や、手話が理解できないことを利用したおどけたやりとり、発電機の使い道などが、後半にしっかりと生きてくる。前作KOMでぶん投げたオチも、きれいに回収してみせる。こうした無茶振り要素がカチカチッとハマっていく様は実に気持ちが良い。

感情的な物語を人間たちが放棄した代わりに、本作のヒーローとしての役割を仮託されているのがキングコングである。KOMで地球最強の怪獣として君臨し、名前の通り「God」であるところの神聖な存在であるゴジラに対し、冒頭で槍を投げてみせたり、予告編でもあるように斧を使ってみせたりと、工夫で超克してみせようとするガッツ。そして、大分前から公式公開されてはいるものの一応ネタバレ配慮で詳説しかねるあの出来事の際にも、あいつのピンチを救ってみせる男気。手話を使った聾者の娘との会話。グッと来るポイントがそこかしこにある。

怪獣バトルの描き方も、KOM同様素晴らしい。KOMはギドラが対象ということもあって引きの絵が多めの神々しい宗教画的なモチーフが多かった(十字架すら登場した)が、今回は地に足の着いた、格闘技を見ているような躍動感があって、別種の満足感があった。特に、コングのあの象徴的なポーズ、ビルを登る光景が見られたのが本当に満足しています。満足っていうか、満腹。でも来年ぐらいにはおかわりしたくなるはず。

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