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さがす

……マジか……。「白いソックス」「トイレ借りてもいいですか」。脳に嫌な汗をかいちゃうんすけど…。

叩きつけるようなオープニング、伊東蒼演じる女子高生が、少し低めの画角での横移動で大阪の街を急ぐ。『ビューティフル・デイ』のリン・ラムジーとか、パク・チャヌクを連想させるような防犯カメラショットとフリーキーなドラムが切り裂いた時間の切断面を見せるような冒頭。たどり着いたのは、万引で捕まった父親(佐藤二朗の福田雄一にヤラれてないバージョン)のいるスーパーのバックヤード。

『岬の兄妹』片山慎三監督の最新作。デビュー作で社会の最底辺をこれでもかというぐらい描いたのと同様、本作も予告で想像する100倍ぐらい重い話。更に『岬の兄妹』では良い意味でも悪い意味でも緊張感を削いでいたコメディ演出がグッと控えめに、要所要所で効果的に使われるバランスが全体に良い影響を与えていたように思える。結果、終始重苦しい話を、張り付いた笑顔のまま描ききるような凄みがあって、それがますます不気味である。

握り飯をくちゃくちゃと喰らい(クチャ食いのもたらす思考の淀み)、連続殺人事件の容疑者を発見したと言い残した父は、唐突に娘の目の前から姿を消す。消えた父親を「さがす」娘。タイトルにも象徴された「さがす」という言葉の意味が、主人公の主観が変わるのと同時に流転、印象も定まらぬまま物語は猛スピードで展開していく。誰が、何を、何のために「さがす」のか。注視したまま食い入るように展開を見つめていたら、ほとんど『ジャンヌ・ディエルマン』的と言っても過言ではない、驚くような光景に着地する。見事な物語、見事な演出だと、深く嘆息した。

佐藤二朗の濁った目。清水尋也の死んだ目。森田望智の腐った目。役者が皆見事な「目」。特筆すべきは、娘役の伊東蒼。決して典型的な美人、というわけではないが、地に足のついた魅力がある。それこそ、中学の同級生が本気で告白する程度には…という姿形の説得力。同時期に𠮷田恵輔監督『空白』(こちらも見逃してしまってる…が必ず観ます)にも出演しているとのことで、今後観る機会が多くなりそうだと思った。(小さい役だったけど、中田カウスみたいな喋り方の警官も面白かったな)

ディティールに注力するスタッフの力も活きている。冒頭は置きに行った感じもあったタイポグラフィーだが、時間経過の表示などでの、海外のドラマなどで見られる巨大サイズのフォントを使用しつつ、大胆な長体と見切れといった日本語にアジャストした実践がとても意欲的。髙位妃楊子さんによる音楽も、終始素晴らしい効果を上げていた。

父と母の無音の慟哭、シャツのボタンをとめながら思いがけず心を通わせてしまう二人、人畜無害そうな田舎のおっさんが見せる裏の顔、殺人犯の用意したクーラーボックスがひっくり返るシーンとか、いくつか忘れられないシーンがある。片山慎三監督に関しては、今後、深田晃司監督や、濱口竜介監督らと同様、多くの人にとって鑑賞を欠かすことのできない作家になりそう。日本だけではなく、世界で。

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