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地下室のヘンな穴

「あらすじ:入ると12時間進んで3日若返る穴がありました」って言われた時点で、「なるほど、これは「入ると12時間進んで3日若返る穴」大喜利映画だな。これがNo.1ヒットってやっぱヘンな国だな、フランス」と思って観るじゃないですか。そうするとちょっと違うんすよね、なんというか、全体のネジが完全に緩んでるというか。それはそうと、この物語にはもう一つ、全く異なる「ヘンなこと」が発生するんですが、それもあまりに強烈で、俺なんかもう映画館の椅子の上でのけぞって吹き出したんですけど、うーーん、それは言っていいのかな。いや、あんま良くないと思うんすよ、ネタバレになるし。だけど、さっき話し合った時には、言うって言ったじゃない、いや、それは食後にコーヒーがあったら、の話で、今はワインを飲んでるから。でも、いい雰囲気になったから、もう言っちゃってもいいんじゃないの?いや、仕事と一緒で、こういうのはきっちりしなきゃならんのよ。と、ここでコーヒーが到着して、ナイスタイミング、心の準備は出来た?じゃあ、話しますよ、びっくりしないようにね。本当に、なんというか、あまりにぶっ飛んだ話だから…。いやー緊張する、上手く言えるかな、やっぱりあなたが話してくれる?いや、君のほうが上手に伝えられるよ……みたいな話を映画の序盤でグダグダグダグダやり始めたところから、これは完全におかしいですよ、様子が。体感10分。こんだけもったいぶるってことは、絶対しょうもない着地ですわ、って高をくくってたら、本当にあまりにぶっ飛んでいたんで、俺なんかもう映画館の椅子の上でのけぞって吹き出した。

フランスでNo.1ヒットですって、俺は信じてないぞ!何かトリックがあるに違いない。とにかく「入ると12時間進んで3日若返る穴」という超魅力的な設定と、もう一つのあまりにしょうもないヘンな設定を転がすだけの屁みたいなコメディのはずが、監督のあまりにヌケの良いトンチンカンさによって生み出された味わったことのないテイストで頭の中をヌチャヌチャにされる。カンタン・デュピュー監督。過去作が、テレパシーを持った殺人タイヤが主人公の『ラバー』とか、タイトル以上でも以下でもないあらすじの『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』とか、友達にすると楽しそうだが、ビジネスパートナーになると厄介そうな印象。

冒頭で思わせぶりに挿入される病院でのカウンセリングシーンが全く機能していないことぐらいではもう驚かない。楽しい設定大喜利しているはずが、話があちらこちらに飛んだ挙げ句、「お時間に限りがありますので」的に中盤の一番盛り上がる、ここが監督の手腕の見せ所ですぞ!な展開が、なんとすべてダイジェスト!!そら74分に収まるわ。その間流れ続ける新解釈『Switched On Bach』の如きペリキンばりに脳天気な電子音バッハが空虚さに拍車をかけ、そのまま崖から真っ逆さまに落ちたような身も蓋もない終幕に、もはや屁も出なかった。「美の再生」をテーマにしたシニシズム、とか、冒頭で再現した空回りする関係性と引き伸ばされた時間に関するコミカルな提起、のような分析も可能かもしれない。だけど、その結果がこの脱臼したような物語なのだから、眉間にシワ寄せて観るのも無粋ってなもん。やっぱフランスってよくわかんねえな、を体感するのに最適な74分。わかると思うけど、超褒めてる。ここ最近ではぶっちぎりで間違った日本描写も堪能できます。

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