オールド・ドッグ

見るからにしょぼくれた老犬を連れた男が、バイクをノロノロと走らせている。「どうせ犬泥棒に盗まれてしまうから」と、父親が育てた老犬を売り払おうとしている男。ペットブームに湧く中国の富裕層がチベットの純血マスチフ犬を高く買取るので、犬泥棒が横行しているのである。買値1000元とふっかけられたが、親戚の警察官の力添えもあり、当初の3倍の値段で街の業者に売却。首尾よく街に戻ったその翌朝、息子が犬を売ったことを知った父親は「犬は民族の誇りだ」と激怒し、自ら街に出向いて犬を取り返す。

老犬の値段を提示してくる仲介人が、しつこくつきまとう。男とその父親が、犬を売り、そして取り戻しに行く間。もしくは、妻の姉にバターを渡しに、不妊検査をしに、家族の誰かが街と村を往復する間に、老犬の値段はどんどんとつり上がっていく。

終盤まで、この物語は「犬を媒介にコミュニケーションを取り戻していく親子」の話を描いているのだと思った。老犬を連れた父親はゆっくりと羊を追う終盤の1シーン。カメラはその後ろで柵から出てしまった一頭の羊が、なかなか戻れずにもがくシーンを延々と映し出す(おそらく偶然撮れたものだと思う)。そんな牧羊民の緩やかな営みの中に、突然亀裂が入ってしまうラストシーンを目にした時、この映画が「物語ろうと試みたもの」の片鱗が覗いた気がした。おぼろげながら頭の中で反芻してみると、この物語の位相が変わって見えてくる。すなわち「民族の誇り」である老犬が、「誰かの支配下に置かれてしまうこと」への徹底した拒絶である。

ペマ・ツェテン監督作。画素の粗いデジタルカメラで撮られている作品で、お世辞にもきれいな映像とは言えないが、画の精度とゆっくりとした間のとり方が素晴らしく、センスを感じた。下高井戸シネマで、2021年7月29日まで日替わりで上映中。

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