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ノマドランド

フロンティアスピリットの極北にある楽観

オスカー獲る映画は、大体80点。間違いなく面白いけど、一生大事に思うタイプの宝物のような映画かと問われたら、否と応える、そんな「よく出来た」映画。俺、そろそろわかってきたのよ。

今年度のアカデミー作品賞『ノマドランド』はちょっとテイストが違った。非常に淡々としていて、一見何を描いているのか、言い換えるとテーマが何なのか、よくわからない。確かに「車上生活でアメリカを転々として暮らすノマド=放浪者の生活」を描いている。だけど、その裏側にある「本当に語りたかったもの」は非常に不明瞭にぼかされている。そこを観客の解釈に任せるのが豊かな作品だと思うが、本作はまさにそんな映画だった。『スリー・ビルボード』に続いて、こういう映画を選んでしまうフランシス・マクドーマンドは、本当に良いセンスしてる。

フランシス・マクドーマンド演じる主人公ファーン(アカデミー主演女優賞)は、かつて夫と住んだ街エンペラーが、そこを支えていた企業の倒産でゴーストタウンとなったのをきっかけに、車上で生活をして働きながら全国各地を転々する生活をスタートさせる。年末商戦時期はAmazonの倉庫で働き(俺、これ、Prime Videoで観てるんだけど…)、すっげえ寂しい「Happy New Year」の安物ティアラを付けて一人新年を祝う。繁忙期が過ぎたらそれこそ各地を転々と。ボロ車を自分で改良し、手を入れているが思い入れが増し、故に買い替えもできず、バケツで用を足し、凍える狭い車中に身体を縮めながら眠る。当然、貧乏暮らしだが、同じような生活を送る人々とたまに寄り合い、そして別れ、基本的には孤独に生きていく。

頻繁に訪れる「別れ」はちょっぴりの悲しみ、切なさを以て描かれるが、劇中の人物が言う通り、常に「また会おう」と別れ、最後のあいさつをしないのがノマド(ちなみに、登場人物の一部は実際のノマドが演じている)。そういう意味で、この生活が真の孤独の温床として描かれることはないし、もっと驚くことに、本作には悪人と呼べるような人物は登場しない。みな、主人公に好意的で親切に接し、主人公もそれをわかっている。たまに出会い、仲良くなる人たちとは心底楽しく過ごし、若々しく手を振り、酒を飲んで笑う。しかし、次の朝には一人車を走らせている。背中を丸めて。

この主人公がかつて観ていた風景、夫とエンペラーという街で暮らしていた頃に寝室から観た風景こそが、彼女にとってのアメリカの原風景であり、不毛な砂漠が連なるその先を観てみたいという「探究心」のようなものこそがある種、真のアメリカン・スピリットであったはずだ、という意見の表明として受け止めた。

農場を持つ夢を意固地に諦めない韓国からの移民を主人公にした『ミナリ』同様、アジアからやってきた作家ならではの視座を持った映画のように感じた。監督のクロエ・ジャオの次回作は『エターナルズ』で、堂々のMCU入り。ようこそ!って感じですよね。彼女の挑戦はここから始まるわけです。

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