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ディノチェンゾ兄弟『アメリカ・ラティーナ』/噛み合わない歯車が誘う狂った世界

美しい妻と二人の娘を持つ歯科医のマッシモは、自宅の地下室で見てはいけないあるものを発見する「やったのは誰なのか」というフーダニットと、「狂っているのは世界か俺か」というボーダーラインミステリーが並走し、マッシモの心を蝕んでいく。一度観ておきたいと思っていたディノチェンゾ兄弟監督作品、イタリア映画祭2022で鑑賞。

まあ、普通に考えて、自宅でこんなことになっているのだから、犯人は妻か娘たちしか考えられぬ、というところからスタートし、「週に一度の深酒」という悪癖があることが判明している主人公自身の自失の可能性や、カーディーラーの悪友や周囲の人々に疑惑の目は向けられ、あらゆる方向から事態の検証は進む。一つ一つはサイコサスペンス、ニューロティック・スリラー的にありがちな展開、ミステリーだったりするのだが、一貫して歯車の噛み合わない違和感が漂い続ける。その結果、焼き立てパイを食べる女たちの咀嚼音の大きさに異様を感じてしまうシーンや、恐怖のコーラスが主人公を決定的に追い詰めるバースデーソングシーンで緊張が最高潮を迎え、俺はこの一連の誕生日シーンだけでしっかりと鑑賞料の元を取ったなと思った。

ヨルゴス・ランティモス『籠の中の乙女(Dogtooth)』を観た時に感じた「この作品はまだまだ飛距離不足だが、いずれ凄い傑作をものするに違いない」という感覚と同じものを覚えたが、こっちのほうが完成度は上。赤と青の一色に染まる室内や、窓越しに分断されて映る家族の姿など、真相を知った上でもう一度観たいシーンが沢山ある。ブルーノ・デュモン『ユマニテ』や、マッテオ・ガローネ『ドッグマン』、アルゼンチンホラーの傑作『マーダー・ミー・モンスター』なんかも連想した。ディノチェンゾ兄弟、これは買いですよ。

※ イタリア映画祭では、東京で5/2、大阪で5/15に上映が残っているみたいなので是非。配信もあるみたい。

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