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国に繁栄をもたらすという「黄金羊毛」を奪取するため、異国イオルコスに出兵したイアーソンは、黄金羊毛と一緒に、魔女と呼ばれた不思議な能力を持つ女・メディアを囚えて帰国する。イアーソンの寵愛を受け、妻として二人の子どもを産むメディア。しかし、夫は王妃を妻に迎えることとなり、突然の裏切りに傷ついたメディアは復讐を誓うこととなる。

マリア・カラスが「メーデイア」を演じた、1969年のパゾリーニ監督作品。ギリシャ神話に登場するコルキスの魔女を中心とした悲劇について描いたエウリピデス『メディア』が原作。元々、メーデイアを息子殺しの加害者とみなす解釈が主流だったらしいが、本作では理不尽な状況に追いやられた一人の女性の怒りが印象的に描かれている。

男たちの都合で信仰を失った文明の地に異郷よりはるばる連行され、太陽神に与えられた自らの力を失ってしまい、ホモソーシャルな集団の中で泣くことしかできない弱い女となってしまったメディア。そうして骨抜きにされた挙げ句、都合よく棄てられ、都合よく追放されてしまうという理不尽は、職能放棄を余儀なくされ、出産や子育てを経て、家庭に依存せざるを得なくなる現代日本女性の問題にも重なって見える

ロケーションと美術には眼を見張るものがあり、特に、ギョレメの岩窟教会群で撮影されたイオルコスの光景は、ただ見惚れてしまうような異形の迫力がある。多種多様な音楽が異国情緒を表現しており、特に粗野な弦楽器で演奏されるイオルコスのフォルクロアに、日本の地歌が用いられているのには驚いた。

怒りの業火に包まれながら、叫ぶマリア・カラスの姿。「FINE」が出て唐突に物語の終わりに突き落とされていたことに気付いた瞬間、息を飲んでいた。

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