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ツイン・ピークス The Return

遂に旅が終わった…。

2017年に再開した『ツイン・ピークス』の旅は、18話の長きに渡り、絶えず驚きをもたらしてくれた。「果たして、ツイン・ピークスに語るべき謎は残っていたのか」などと蒸し返す必要もない、あれもこれも観たい知りたいが、結局『ローラ・パーマー最期の7日間』同様、見たいものと違うものを見せられて終わるのではないかという疑念があった(振り返ってみると、あの映画に対する俺たちの見方は意地悪すぎたきらいがあると思ったけど)。なるほど、16話で遂にあの人が覚醒し、17話で大団円を迎えたその瞬間、なんと辛抱強く待った甲斐があったことかと猛烈に感動(ルーシーとアンディにとっておきの見せ場を作ってくれたリンチに優しさを感じた)。最終話一話を残し、尋常ではない満足感を以て、ゴールテープを切った気分でいた。

ところが、最終18話。オリジナルシーズンのようなサイケデリアとはまた違った地平、五里霧中の抽象地獄に突き落とされたような不安を抱いたままシリーズが終わった時、「結局、これはなんだったのか…」と狐につままれたような気持ちで脱力した。「彼女」を救う夢から覚醒し、ダイアンとの再会を経て、430マイルを越えた旅の終着点。束の間の暴力が覆った「ジュディのダイナー」。ウェイトレスの自宅に男の遺体。「加害者」のぼやけた暴力の影と、白い馬の置物。そして再開したツイン・ピークスまでの長い旅は、カタルシスとは程遠い、新たな謎を創出するかのごとき人物との邂逅を以て終わりを告げる。「今年は、何年なんだ!?」と吐き捨てるクーパーの疑問に呼応するように、「彼女」の絶叫がこだまする…。

デイル・クーパーの疑問から、するすると手がかりが落ちてくる。「彼女」の実家にいたのが、「今現在、本当にそのロケ地の家に住んでいる人」という情報が妄想に拍車をかける。メタを飛び越えてしまった。25年を経て、時代も不定の、別の時間軸で、そして再び「ボブ」と「ジュディ」による支配の気配を感じた「彼女」が絶叫したのである。

所謂「不思議な話」「アヴァンギャルドな物語」という事前の情報を鵜呑みにして見ていたが、実は心地よいほど綿密に練り上げられており、二度目に観ると(そう、短期間で一度見直した…)メインストーリーは実にシンプル。途中で、弾けるように様々な謎が爆発するが、しかし、その広げすぎた風呂敷は、枝葉を切り落として、着実に収斂の道を進む。顕になったのは、ドッペルゲンガーたるふたりのデイル・クーパーの闘いである。かたや、ブラックロッジに戻るのを拒否するボブの魂。かたや、「悪・クーパー」をブラックロッジに戻して、ボブを破壊しようとする「真・クーパー」。ふたりとも彼岸を越えた存在であり、ストゥパ(化身)はひっきりなしに登場してくる。

まるでブラッケージのような8話目の古の描写も呆気にとられるほどの出来だったが、フランシス・ベーコンを思わせる不気味で奇天烈な有機体や、ピカビアを思わせる「装置」が、リンチの初期習作のようなチープな肌触りで何気なく要所要所で挿入されるのも、非常に贅沢な作りだと思った。

長い長い旅路の果て、いよいよ満を持して『ツイン・ピークス』のテーマが流れる。正しくローラ・パーマーの物語を紡ぎ直してみせた(アニーなどはまるで存在しなかったかのように)。かくして、円環は閉じた。

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