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15Nov2025
  • 『愚か者の身分』/巻き込んでしまった人生について

    「期限が切れそうなU-Nextのポイント使わなきゃ!」と、焦って買ってしまったTOHOシネマズのチケット。見事に消費し損ねて、ノーマークだった本作を観てしまった。こういう事故ってある。良い事故でした。

    半グレっぽいルックのタクヤ(北村匠海)と、その舎弟?と思われるマモル(林裕太)が、川を流れていくギャルソンのシャツを見つめている。この二人が否応なしに巻き込まれる、戸籍売買に、臓器売買といった裏稼業の世界。そんな底辺の生活を、時系列を組み替えながら進行するこの語り口が特徴的な本作。

    幼い顔して、詐欺の片棒担いではしゃいでいるマモルだが、慕っているタクヤの作ったアジの煮付けをぎこちない箸捌きで頬張る姿を見た後だったら、歌舞伎町で盛り上がっている姿に涙腺が緩んでしまう。手法の勝利である。幼いころから暴力の中で過ごし、ボツボツと根性焼きの徴を腕に残し、タクヤが頭を撫でようとしただけで怯えていたマモルが、肩を組んで笑っている。

    いずれ彼らにも牙を剥くであろう残酷な世界に、マモルを引きずりこんでしまった責任がタクヤにはある。しかし、そのタクヤをこの世界に引きずり込んだ人間も、いる。世代を跨いで「巻き込んでしまった」人生に対して、どのように責任を取っていくか、というのがこの物語のメインテーマである。負の連鎖が若い世代を蝕んでいく構図はよく見るが、正しい行いが年長世代に影響していくという物語はあまり記憶になかった。


    彼らを追い込む佐藤を演じる嶺豪一は、『ニュータウンの青春』の無気力なあいつが?という驚きの怪演。笑顔がこわい。いやだ。その上にいるジョージ(田邊和也)の怖さ、冗談通じなさそうな雰囲気そのものも嫌だが、「この世界、これが天井ではない」という絶望的な確信があって、その変な解像度もいやだ。ただし、このジョージが、現役で格闘技やってるっぽい綾野剛に勝てちゃう時点で、その無根拠な強さがちょっと興醒めに結びついてしまうという難点はあった。ヴィランそのものはそこまで強くなくて、とにかく非道で権力あるだけ設定の方が好きだし、この物語にも合ってる気がする。

    ともあれ、台詞や小道具、徹底的に考えて構築していったのがよく分かる丁寧な出来の映画。特に、語尾の変化や、「言わなかったこと」にセンスと工夫を感じさせる。個人的には何より、これをTOHOシネマズ新宿で観れたのが嬉しかった。この映画で描かれた風景は、ゴジラのビルのあのエスカレーターを降りた地点から広がっているから。聖地だよ、聖地。

  • 『Mr.ノーバディ2』/家族旅行とか、そういう問題でもねえ気がしてきた

    まさに「何者でもなかった男(Mr.ノーバディ)」が、その後何者かになり得たのか、はともかく、あの退屈な一週間を過ごしていた家族はどうなったのか。前作の射影としてのオープニングシークエンスを経て、綺麗に相対化された説明に、理想的な続編の影を見る。退屈で退屈で退屈で仕方のなかったハッチが、自らの暴力性と家族への愛情に引き裂かれ続けるという奇妙なルーティン。

    シリーズで描かれる二種類のハッチとその家族。その一つである「殺し屋の息子」としてのハッチ(そしてハリー。愛してるよRZA)については、今回大量の仄めかし以上のことは描かれていないので、続編に期待する。今回メインで描かれるのは「殺し屋の父、夫」としてのハッチ。思いがけずバラバラに吹き飛んでしまいそうにか弱い絆を深いものとするための再生の機会として、バカンスにやって来た観光地で散々な目に逢う。前作で、一発の打擲に躊躇したせいで失った父としての威厳。しかし、前作での行動を経た本作ではそうした側面がリフレクトして、まさにハッチの抑え切れない暴力性こそが問題となる。怒りを抑えられぬ男=ハッチが、このイシューを如何に解決するのか、が、差し迫った危機(こっちは「怒らせてはいけない奴を怒らせてしまった」系のお決まりの盛り上がるやつ)の背後で密かに解決されるべき問題として蠢いている。

    ということで、その解決策の処し方にも満足したし、それが故にラストショットも軽やかに、しかし意味深く迫り来る。そこに至る過程は、ひとかけらの躊躇もなく、派手で、下品で、カッコいい。対するヴィランの魅力。今回は登場こそ若干地味に感じたものの、その後のダンスシーンの訳わからなさに、ワイスピ最新作における傑出したサイコパスであったジェイソン・モモアに近いものも感じるほどの素晴らしさで、あの婆さんがシャロン・ストーンであることなど、エンドロールまで全く想像もしてなかった…。シャロン・ストーン?なの?あれ。

    真正面からベロシティ高めのアクション映画にして、「実は文芸…?」とか思ってたけど、いやいや全然。最良の部類のげんき映画。自分たちで始め、自分たちで発展させてきた「ジョン・ウィック的映画文法」への矜持もそこかしこに散見できたのが嬉しかったです。いや、簡単なことです。犬、とかな。

12Nov2025
  • 三宅唱『旅と日々』/何も起こらないことと、豊かな余白の差

    つげ義春原作とは知らずにうかうかと。大好きな『海辺の叙景』の最終ページが顕現して声が出そうになった。「いい感じよ…」。大雨の海原が劇中劇であることが判明すると、シム・ウンギョン演じる脚本家は、大学の教室で生徒から感想を求められて「わたしは、才能がない」と回答する。

    「言葉に追いつかれて、閉じ込められてしまう」。韓国から来日し、言葉や文化の壁による謎や恐怖を体験していた主人公も、慣れてくるに従って、言葉に追いつかれてしまう。ヴィトゲンシュタイン的な実在観に等しいものを感じてしまう問い立て。その言語空間=人生から脱出するための一つの手段として、「旅」は存在する。

    思えば、『海辺の叙景』原作にはないシーンで、主人公の男性は寂れた浜辺で異国人に話しかけられるのであった。サングラスをとって、「被写体になってくれ」と告げているであろう彼女の持つカメラ。後に荒れ狂うそこで、明日には分かれてしまう女性との逢瀬の昂揚を発散するかの如く、泳ぎ続ける男の姿はそこでも図像として切り取られていたのである。カメラも、眼も、言葉をやすやすと置き去りにしてしまう。

    言葉(日本語・韓国語・異国語・方言・お経)と世界(現実・写真・映画)、日常(働くこと・生きること)と死、記録(カメラ)と記憶。いくつかのテーマが交差するように点を結び、至る所で結晶のように散りばめられている。車のフロントガラスにこびりついた小さな汚れ、ネットで保護された崖、水墨画のように黒く伸びる河川に道路、落としたカメラ、地図の外にある目的地、故人の双子の弟、指の包帯、吸えない煙草。言葉にもならないようなモチーフが、柔らかく僕らの世界に対する認識を狭めたり、拡げたり、準備体操のような映画体験につながっていく。

    「何も起こらない」と、結論するとそう言わざるを得ないような、静かな映画。しかしながら、その世界に入り込めば入り込むほど、豊かな手触りが実体化していく。余白のある映画体験に、ビリビリと痺れるような興奮が続いた。相変わらず、すごい作品だと思います。

05Nov2025
29Oct2025
27Oct2025
  • 「ゆりかご」のことを、英語では「Cradle」と言うの、どう考えても、不相応に格好良すぎに思えるんですよね。「どう考えても」?

26Oct2025
  • 枡二つ、ライターと古い少年ジャンプ。老人が持っているのはそれで全てのように感じた。GLAYやTMネットワークが流れるトー横でコーヒーを飲んでいたら、目の前に座り込んで俺を睨みつける。目尻が血走っている。

    日本で一番治安悪いんじゃねえだろうか、歌舞伎町。映画2本観て帰った。

23Oct2025
22Oct2025
  • OKCとヒューストンの開幕戦、いきなり2OTで笑った。いくらなんでも白熱し過ぎだろう。

    当然、OKCの新旧スター対決ってことで、負けられねえ、去年のMVPであるSGAとしては。素晴らしい試合でしたが、略称多すぎて酷い文章を書いてみました。NBA。

20Oct2025
  • いつものようにApple Musicシャッフルしてたら、D'Angelo流してくれた。ありがとうApple Music。R.I.P.

19Oct2025
  • ブロック崩しローグライト『BALL x PIT』がかなり良いぞ

    NintendoのIndie Worldで紹介されていた『BALL x PIT』がGame Passに来ていたので、軽くプレイしてみたら朝だった。

    プレイ前の「『Vampire Survivors』的な中毒性のあるサバイバル系ゲームなのかな」という印象は、実際プレイしてみると書き換えられる(『Vampire Survivors』は虚無過ぎてもうやりたくない。パチンコとか、そういう印象)。確かに中毒性はあるのだが、ブロック崩しという以上に古くは『キングスナイト』(いくらなんでも古すぎる)的なパワー系シューティングや弾幕系に近い感覚。そこにローグライトの仕組みがしっかりと組み込まれて、欲望マシンが動作するように巧みに設計されている。巧すぎる。

    スピード、ダメージ、範囲、ステータス付与といった特徴を持つボール、「弾は早いが狙いが定まらない」「弾が自分に吸い寄せられる」「壁に当たるまでは敵を貫通する」など、独特の能力を持つキャラクターなど、プレイ中にも目まぐるしく変化していくいくつもの要素の掛け合わせで、リアルタイムに戦略を立てていかなければすぐに詰んでしまう。

    しかし、ブロック崩しに詰んでしまっても、拠点に帰れば、さっき開始した新しいキャラクターの家の建設を進めたり、資材を収穫したりと、改めてやることが山積みで、それをやるには更なる探索が必要になり、ついつい次のターン次のターンと、気がつけば朝。まんまと制作者の掌の内。

    まだプレイ時間は10時間に満たないのだが、おそらく数十時間でクリアまでは到達できるのではないか、というボリューム。やり込むための奥行きもありそうな雰囲気。ガッツリハマりこんで一気にやり込むのでも、たまに気が向いたらプレイして数時間溶かすのも良さそうな、良いゲームを見つけた喜びを噛み締めています!

    https://store.steampowered.com/app/2062430/BALL_x_PIT/?l=japanese