「亡くなる時に人の真価は問われるのだな」とか、答え合わせのように思っていたけど、いやそれだけではなくて、どこでどのように生きてきたかとか、人に依存して生きてきたのか、他人が自分に依存していたのか、とか。そんな様々の条件が蠢いて、死の瞬間が形作られていくのだ、と感慨深く思いながら、妻のお父さんの葬儀を見守ってきました。その直後に、今度は自分のおばさんが亡くなり、訃報が連続した(結局、参列出来なかったのが残念だった)。重なるもんなんですね。
『令和ロマンの娯楽がたり』を観たが、いまいちピンと来ず。お笑い業界の演者たちが、自分たちのことを自分たちで語り、外部からの声はかなり権威主義的にシャットアウトするやり口に対してぼんやりと感じていた不信感が、一 年を通して決定的になってしまったのがデカそう。
加えて「みんなで正解を議論しよう」という建付けで求められている「俯瞰」と「客観視」の白々しさが、画面中の擬似的な熱狂と乖離して、浮き彫りになってしまっているように見える。生成AIが幅を利かせ始めたこの時代に、「正解」になんの意味があるのか。時流とか、ビジネスよりも、主観の大間違いに価値があるという、いつもの話。
李龍徳『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』

「排外主義者たちの夢は叶った」という書き出しがあまりに鮮烈なのだが、その切れ味が以降のページでも一向に収まらない。この「憤り」の物語は、複雑な双方向の刃で周囲に切り掛かり、その様が如何にもSNS以降の「現代」という空気を感じさせる。
「極右の女性政治家」が総理大臣となり、排外主義が幅を効かせた結果、在日韓国人の人権が脅かされていく。2020年の作品とは思えないほど、現代日本を言い当ててしまっていることに怖気を感じるが、現実同様、外も内もザリザリにささくれ立っていく中、韓国への集団帰国を企てる「青年団」の元リーダー朴梨花の言葉がよかった。彼女は、政治活動を創作活動の一つの発露として捉えている。
でも私は気づいたの。直接の読者を持たないような、私のなかだけで閉じているように思われる自称『創作活動』がそれでも、この世界の扉をノックしてた、この世界にじかに触れてた、世界に参加してた、って。そうじゃなかったらどうして、(中略)後世に作品を残せなかった名もなき作り手たちの声が、私たちの礎となったと言えるか。この世界を動かす。私たちの住むこの大きな球体をなんとか動かす。その指の引っかかりとなる。
フリーダ・マクファデン『ハウスメイド』

「登場人物一覧」に記載されている人数を無視できるミステリー好きはいない(断言)。ここに記載されている中に真犯人は含まれる(含まれていない場合、激しい非難の対象となる)ため、数が多ければ複雑で読み甲斐があり、少ないと単純で退屈、と予想可能だし、その予想は大抵当たる。だからフリーダ・マクファデン『ハウスメイド』の登場人物一覧に記載された人物が「5人」というのは大変危険な信号。しかし、ここまで少ないのは未だかつて見たことがない。であれば、むしろ挑発的、とも感じられた。
結論、大いに挑発的だった。主人公の家政婦ミリー、勤め先の富豪アンディ夫妻に、娘と庭師。完読すれば、ここに追加できる人物がもう何人かいることに気づく(近隣の住人や、アンディの両親など)が、むしろこの5人であることが重要。ミスリーディングもテーマのブレも避け、不気味な家に住み込みで勤めることになったミリーの不安にフォーカス出来る、ベストな登場人物一覧である。
中身はすごい。近年の端正な構造を持ったミステリーの数々に比べると荒削りではあるが、ショートショートの連続のようなスピードで不穏な小話が挿入されて、すべてをすっ飛ばしてオチを聞かせて欲しい気持ちでたまらなくなる。その衝動が燃料となり、ページを繰る指が止まらない。そんなタイプのスリラー。
映画向きだなー、もっと言うと端から映画化を目論んで執筆されたよ うな作品だなと思っていたら、2025年の12月、既に公開されているとのことで。

ミリー役シドニー・スウィーニーかーーーー。ケイリー・スピーニーで想像していたんで調子狂ったなー、とか思いました。
歌詞完成ー!疲れたー!やったー!
『ストレンジャー・シングス シーズン5』

物語、それもドル箱の物語を、きちんと終わらせるというのは、大変難しい(難しそう)。終わらせたいという欲望(それは大抵原作者の側から発せられる)と、終わらせたくないという欲望(それは大抵ステークホルダーの側から発せられる)のせめぎあいの中、強いられた消耗戦の末にしおしおと萎んでいく光景を見るのは本当に辛い。だから、まず、ストレンジャー・シングスがきちんと終わってくれる、ということにこの上ない喜びを感じる。
(以下、シーズン5のネタバレはしないが、それまでのネタバレは多少含む)
結末への旅路は、傑出したシーズン4から始まっていたと思う。80年代オマージュを多分に含んだシンプルなジュブナイルSFの傑作として産声を上げたシーズン1から、あまりに多幸感溢れるシーズン2の「スノーボール」までは、マイク、ルーカス、ダスティン、ウィル、この愛すべき4人のボンクラに、超能力少女エルと、クールなマックスを加えた少年少女に与えられた理想的なハッピーエンディングを迎えたドラマとして認識していたので、シーズン3の別離でビターを踏み越えてしまった時はモヤモヤを感じてしまった。物語の円環が閉じていない。だから、シーズン5で物語が閉じる、と聞いて思ったのは「ストレンジャー・シングスなりのハッピーエンドのやり直し」とはどういうことを意味するのだろう、ということだった。それは単純なハッピーエンドにはなり得ないだろう、という予感というか推測も当然ありながら。
この辺に巧さがあったと思う。話は深く、登場人物は増え、謎は深まるのだが、同時に焦点は絞られ、人物の関係性は整理され、イシューは明確になっていった。ヴェクナは退けられたものの、4人の犠牲を以てホーキンスは破壊された。だから、ヴェクナを再び決定的に退けなければならない。しかしどうやって?シーズン5は、正しくこの問いから幕を開け、裏側の世界と精神世界についての認識を更新しながら、丁寧に整理していく。
では、このイシューの先にある「新しいスノーボール」はどのように在ったか。単に配信初日に見る機会を得たというだけの優越感からそれを開陳するような悪趣味には堕さない。多くに枝葉を広げ、多くの世代が参加したこの物語を、厳しく寂しくも楽しく締めること。その難題にどのように取り組んだのかは各々が確かめて欲しいところ。俺はとにかく、コズミックホラーに至るまで拡張を重ねたこの物語の結末が、かくもパーソナルであったことに歓喜の涙を止められなかった。ちゃんと終わらせてくれて、本当にありがとう。

謹賀新年。と言っても、何の節目にもなっていないので、そこまで前のめりになっているわけでもなく、引き続き淡々とやることやるぞ、と。昨年出そうと思った音源はちょい遅れて、ようやく歌詞が7割終わったぐらいで詰め作業中。全部が終わるのは3月ぐらいになりそうなので、そこまでは一続き感が拭えないのだろうなと思う。
時宜にそぐわぬと承知の上で年始からこんなこと言うのだが、一年一年死が近づいている。やれることは少なくなってくるから、やるべきことを優先的に取り組むしかない。
BEST MOVIE 2025

今年は音楽などの制作に時間を割いていたので、意図して映画鑑賞の量を減らしていました(来年もその予定)。結果、160本鑑賞、うち新作は87本。いつも言っているんですが、森脇健児が月に10本映画を観るとのことで、最低でもそれ以上は観ようと思っている「夢がMORI MORI」世代にしてアンチ。今年も無事、森脇越え、達成しました。
寸評付けながら、今年のベスト10本を挙げさせていただきます。上記のような事情もあり、きちんとしたレビューはなかなか載せられなかったんですが、FilmarksにはiPhone一筆書きレビューを残しているので、気になる方はそちらも参照ください。
https://filmarks.com/users/mcatm
10. ティモ・ジャヤント『Mr.ノーバディ2』
げんき映画枠。真正面からベロシティ高めのアクション映画にして、実は文芸…とか思ってたけど、いやいや全然。最良の部類のげんき映画。今週の発見なんですが、俺はボブ・オデンカークにあの日のブルース・ウィリスを投影しているのかもしれない。
https://www.rippingyard.com/post/XU9JteQ9gtZ05UC6NhWR
9. ババク・ジャラリ『フォーチュンクッキー』
インディー文芸枠。故郷の喪失を根底に抱え、人との触れ合いに障害を感じている主人公の大事な一歩。「フォーチュンクッキー」というタイトルが象徴するように、全ては運の問題だからこそ、我々はあえて外に出るための一歩を踏み出さなければならない。
8. ホ・ジノ『満ち足りた家族』
胸糞韓国映画枠。金持ちの悪徳弁護士と、貧困層にも手を差し伸べる医師の兄弟家族が、倫理ゼロ地点に堕ちていく。これを以て、言うに事欠いて「満ち足りた家族」て。最高に胸糞悪いが故に、俺はこれを教育目的でむすこに見せたい。
7. 団塚唯我『見はらし世代』
邦画新世代枠。仕事を優先した結果、家族を壊してしまった父親。それを許すことの出来ない子どもたち。都市再開発も、ビジネス優先もクソだが、クソにはクソなりの考えがあるのだよ、と立ち止まって一度肯定してみようとする作り手の意識がユニークだった。
https://www.rippingyard.com/post/XPaGR1Oh5vQNV533TUJ7
6. グラハム・フォイ『メイデン』
インディー文芸枠。街を映す地平線に、儚さがにじみ出ている。月だと思っていたら、水面に映った月だったような、現の危うさ。大切な人の死に直面し残されてしまった者。その視点が物語の中心を占めている。路肩に停められた自動車に、これほどまで不安を感じる映画に覚えがない。
5. ザック・クレッガー『WEAPONS/ウェポンズ』
ホラー枠。最高すぎて劇場最前列で震えてた。『ヘレディタリー』以来の、最高ミステリーホラー更新でしょう。ネタバレから逃げ切って、劇場で見て欲しいという思いが強すぎるので何も言えない。観てくれ。話そう。
4. グアン・フー『ブラックドッグ』
中華ノワール枠。病気持ちの黒い犬との関係を経て、人生を再び取り戻そうとする主人公の闘いが描かれる。僕らはある種の「人生の終わり」を眼前にして始めて、人生がいつ始まったのか、を意識するのではないか。
3. 早川千絵『ルノワール』
邦画代表枠。父親の死を前にした少女の生活を中心に、その悲しみを如何にして表出させるのかが丁寧に丁寧に描かれる。大事なことをそのまま感情の爆発として伝えてしまうような表現を巧妙に避け、自由な解釈の余地を残して仕上げるやり方が良かった。
2. ローラ・ワンデル『Playground/校庭』
社会派文芸枠。自慢の兄が学校でいじめられている。その発見に妹としてどう対処するべきかを考え追い込まれ続ける72分。誰が、何を、どうすればよかったのか。議論の場は開けていると同時に、作り手として一旦物語をきちんと終わらせるという作劇的な誠実さも保ちきった傑作。
1. マシュー・ランキン『ユニバーサル・ランゲージ』
アートコメディ枠。七面鳥にメガネを取られてしまった少年を助けるために奮闘する姉妹と、ウィニペグに帰省して母親に会いに行く男。2つの物語が衝突するときに、アイデンティティの喪失と混交が発生して、世界が反転してしまう。そんな世界の揺らぎをそのまま収めた驚くべき傑作でした。
https://www.rippingyard.com/post/4ZclCb69Wgl6nXfY5Aa7
ということで、今年はこんな結果になりました。また来年お会いしましょう!
ユニバーサル・ランゲージ
Playground/校庭
ルノワール
ブラックドッグ
WEAPONS/ウェポンズ
メイデン
見はらし世代
満ち足りた家族