ロード・オブ・カオス

原作の邦題にもある通り、ブラックメタルの歴史は文字通り「血塗られている」。行為と態度は唾棄すべきものであるのに、誤解を恐れずに書くと、その数々のエピソードと音楽に「魅了されてきた」ことは確かである。「ボーカルの猟銃自殺写真をジャケットに…」「教会に放火…」「メンバーをナイフで滅多刺し…」等々の確認したかった猟奇エピソードが全て網羅されていた本作。歴史はネタバレ。ここで起こる出来事はほとんど知ってたし、みなさんも知っていると思う。知ってるならそら覚悟しとけよって思うけど、全編通して残酷描写は容赦ない。しかも、普通の暴力映画の2〜3倍の時間をかけて、刺し殺されていく過程をしっかりと丁寧に描いているから、客席からリアルな悲鳴が…。

「怒れる若者たち」による引き伸ばされた冗談のように野放図な音楽活動を開始した、ブラックメタルの創始と言われるバンド「Mayhem」が少しずつ知名度を上げていく序盤は青春劇として描かれる。その過程で、通称「デッド」と呼ばれるモノホンの「逸脱」と出会ったことから、彼らの歩む道は戻ることのできない一本道であることを知る。超えることの出来ない存在を前にした時の振る舞いを問われるユーロニモスことオイスタイン。家族を愛する不良青年であった彼は、なけなしの勇気を振り絞って虚勢を張り、モンスターのような逸脱を迎え入れようした。しかしデッドは、「血が飛び散ってごめん。パーティを始めよう」と書き残し、猟銃自殺してしまうのである。

ブラックメタルの歴史における永遠のアンチヒーロー=ヴァーグ(Burzum)が登場してからは、物語は急速に彼のものとなる。カリスマ性を感じさせる線の細い美青年であるヴァーグは、劇中では少しぽっちゃりとした体躯の、ユーロニモスの虚勢をガチで受け止め続けた結果産み落とされたモンスターとして描かれる。圧倒的な音楽の才能と、悪を遂行し誇示する能力を持つ彼。かたやユーロニモス。ロリー・カルキンが演じ、輝くような美青年として描かれるユーロニモスの実際のルックスをGoogleなどで確かめて欲しい。コープスメイクしているところしか観たことなかったので鑑賞中は違和感なかったのだが、改めて素顔を見ると、圧倒的に、しょぼくれている。そんなユーロニモスに認められて喜んでいたヴァーグは、彼らブラックサークルの中で頭角を表してくるにつれ、ユーロニモスの弱さ、虚勢、不誠実さに気づいていく。かつて、ユーロニモスから「ポーザー(素人)」と馬鹿にされたヴァーグが、その邪悪な信念を貫き通す中で関係性を逆転させていくダイナミズム。

ヴァーグの件はミスキャストだとは思う(本人も怒ってるみたい)。一連の醜悪な出来事が主人公ユーロニモスの弱さに結び付けられるという、偽のヒューマニズムも気になるところではある。それでも、これらがここに記録されてよかったと思う。正しい/正しくないを超えたところに強烈なものってある。「正しく」少なくとも「正しくない状態ではいられない」私たちが、どのようにして世界と、巨大な才能と対峙しなければいけないのかを感じさせてくれる物語であった。(エンドクレジットで「音楽:シガー・ロス」と表示された時は卒倒するかと思った)

    MCATM

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