Clairo - Sling
「Pretty Girl」の頃から、「これは確かに死ぬほどキュートだが、文字通り受け取るわけにはいけないぞ」という磁石の狂った野生の勘のようなものが邪魔をして、あんまり乗れなかったClairo。だけど、「磁石が狂った」っていうのは自己卑下が過ぎるかも。確かに、塩の塊を持ち出して、美味い美味いと愛でるような歪な趣きがある。
だから、新作の報を受けた時も大人なので垂涎の末に飛びついたりはせず、まずは一服、心を落ち着ける十分な時間的なゆとりを以て臨んだ。そしたら、時間をかけて染み入る系の作品で、思わずマスクで街に出る時もリピートするような2021年重要作に。エラいもんで、以前の作品とかも良さがわかるようになった。
個人的には、「Lo-Fi」には「Lo-Fi」のままいて欲しい、というのが本来「好事家」こと俺の願望だが、Clairoの場合は結局、「Lo-Fi」が言い訳にしかなってなかったんだと思う。本 作は、Jack Antonoffをプロデューサーに迎え、デッドな鳴りが心地よいチェンバーミュージックとして、珠玉と言っても差し支えないレベルの楽曲が堂々と収められている。堂々と。元々、このスケールだったんですよ、多分、彼女は。
先に挙げた「Amoeba」のようなベッドサイドR&B的なアプローチも、現代の女性インディーズSSWの2曲目っぽくて良いし、「Just for Today」のようなフォークソングもチャーミングなフックに魅せられてしまう。個人的には、「Partridge」のコーラスワークとふわっとしたアレンジに、そこはかとないクラウトっぽさまで感じた。
Weyes Bloodの『Titanic Rising』を思い出しました。傑作。
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