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WAVES/ウェイブス

対話の先に希望があり、無理解の先に死が待っている。ケンドリックが、アニマル・コレクティヴが、カニエが、そしてフランク・オーシャンが、燃え盛る炎の下で孤独をより深め、寄せては返す緩やかな波のそばで共感を促す。映画館に響く低音は、深いリバーブにディレイで撹拌され、観客はサイケデリアとは無縁の覚醒へと導かれる。醒めた女と、醒めた男の、冷えたビジョン。黒い肌を艶かしく見せる青とワインレッドの重なりが、蒸発する汗とともに、温度を失っていく。

有望なアスリートである主人公タイラーは、父親からの過度な期待を一身に背負っている。そして、彼はおそらく、その試練に勝つだろう。しかし、運命が彼を悲劇へと導く。映画前半は、僅かなボタンの掛け違いが積み重なり引き起こされる悲劇。そして後半は、その悲劇の責任を感じながら、それでも生きていかなくてはいけない周囲の人間による、再生へ向かうための物語である。

印象的だったのは車内での口論。シートベルト着用を促すリズミカルな警告音は、まるで口論する二人の緊張感を煽るかのごとく、我を忘れて鳴り続けている。心拍音が「死」を告げ、ゴリゴリと響く関節が、負傷した左肩を庇いながら挑むレスリングの試合の行方を不吉に暗示する。音を使った巧みな演出がそこかしこに散りばめられていて、プレイリストとサウンドトラック、効果音のレイヤーが見事に混じりあっている。音楽監督であるトレント・レズナーとアッティカス・ロスの見事な仕事の成果だと思う。

ある崩壊に向けて、緩やかにしかし着実に熱は上昇し、頂点で覚醒に至る。そしてそのゼロ地点から、物語は再度別の人物の視点を持って息を吹き返し、再生への歩みが始まる。「WAVES」。色んな解釈が成り立つであろうこのタイトルは、多くの決定的な出来事が起こる「水辺」を表すのと同時に、物語全体を通して緩やかに上下動するこの「熱」を表現しているのかもしれない、と思った。

https://www.phantom-film.com/waves-movie/

監督は『イット・カムズ・アット・ナイト』のトレイ・エドワード・シュルツ。『イット・カムズ〜』も良かったけど、本当に作りたかったのはこっちなんだろうな、と。技術と作品テーマの見事な一致にそう感じた。

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