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アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル

公権力によってフィギュアスケートを奪い取られたトーニャ・ハーディング。ヒールとして世界中から憎まれながらボクシングのリングに上がり、日銭のために殴られる自分が吐いた赤い血を白いマットに残し、彼女はまた立ち上がる。その背後に取り残されたように表示された『I, TONYA』の文字は黒く塗られている。白と黒。彼女は果たして。

トーニャ・ハーディングの件は、子どもだった僕の記憶にも鮮明に残っている。聞いたら、妻にとってもそうだったみたい。ライバルのナンシー・ケリガンを襲撃したとされる疑惑の中、選考会に挑み、泣きわめきながら脚を上げ、スケートシューズの欠陥を審査員に示して訴える姿は、改めて写真で見ても全く記憶のまま。強烈な印象で焼き付いているのだ。しかしながら、本作を観ると、真相如何に関わらず、あれだけ極限の精神状態にあった女性を、世界は、そして俺は笑いものにしていたんだな、という空恐ろしい現実に震える。俺は、無自覚のうちに、人を笑い者にしていたのだけど、それは果たして許された行いだったのだろうか。

そしてまた懲りもせず、今日も俺たちはあの突拍子もない母親の所業に笑うわけ。あの鬼のような実母が、娘に唯一心を寄せた瞬間。それは一瞬のまやかしだったんだけど、しかしトーニャの身体に触れられない母親の震える指は、彼女を蝕む何らかの疾患を隠そうともしていなかったんだろうな、とも思う(それに病名がつくか否かはまた別の問題)。演じたアリソン・ジャネイ(アカデミー助演女優賞)も、元のルックスは全然違うのに、演技を通すとトーニャの似姿としか思えないマーゴット・ロビーも、本当に素晴らしい。他にもポール・ウォルター・ハウザー(『リチャード・ジュエル』のあいつ)が「ホンモノ」すぎたのと、ナイフ突き刺すシーンでリアルな声出た。俺たちのウィンター・ソルジャーことセバスチャン・スタンのDVダメ亭主ぶりも必見。

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